“安心して訪れられる万博”にはまだ遠い「防災実施計画」/8 木下功
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海外から要人を迎え、多くの子どもたちを招く以上、防災対策は万全を期さなければならないはずだが、非常に心もとない。
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2025年大阪・関西万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)は9月、災害対応の具体策をまとめた「防災実施計画」を公表した。計画の目的は「博覧会期間中に発生する災害から、来場者や博覧会に関わる全ての参加者及び勤務者の安全を確保するとともに、外国人、高齢者、子ども、身体等に障がいを有する方などをはじめ、全ての来場者が安心して訪れることができる博覧会を実現する」ことだ。
昨年12月公表の「防災基本計画」を前提として策定しており、対象とする災害は、地震・津波▽風水害▽落雷▽猛暑▽火災──など。万博開幕まで残り約半年と猶予はないが、地震・津波の際の避難計画、台風・高潮対策、医療体制に疑問が残り、「安心して訪れることができる博覧会」にはまだ遠い。
夢洲孤立の避難場所
地震・津波対策からみていこう。
大阪・関西万博の会場となる夢洲(ゆめしま)は大阪湾に位置する人工島であり、主なアクセスルートは夢舞大橋と夢咲トンネルの二つしかなく、埋め立て地であるために恒常的に地盤沈下し、地震の際には液状化する可能性が高い軟弱地盤だ。今年元日の能登半島地震では、アクセスルート不足と液状化によって被災地が孤立しており、夢洲の孤立について想定外ではすまされない。来場者数はピーク時には1日最大22万7000人を見込んでおり、防災実施計画ではピーク時の約7割、約15万人を橋と海中トンネルを使って避難させる方針だが、現実的に可能なのか。
夢舞大橋も夢咲トンネルも南海トラフ巨大地震を想定した「震度6弱に対する耐震性は備えている」としている。一方で、地震後に利用するには安全確認に時間を要する上、液状化で車が使用できない場合や停電で大阪メトロが動かない可能性もあり、専門家は15万人が夢洲に孤立した場合の想定が必要と説いていた。
今回の防災実施計画で具体性が増したのは、大規模地震が発生した際の一時的な滞在場所である「一時滞在施設」の確保だ。会場内の一時滞在施設としては、催事施設、休憩所、パビリオン、大屋根リングを挙げている。しかし、これで一時的としても15万人を収容できるのだろうか。そもそも大屋根リングには屋根はあるが壁はない。一時滞在施設として適当なのだろうか。
9月5日、横山英幸大阪市長の記者会見で収容人数について聞いたところ、「パビリオンの工事が進んでレイアウトが決まっていけば、鋭意増やしていくと思う。現時点で会場内に、一時滞在施設に避難できる見込みとしても10万人程度はある」との回答だった。会場外への避難としては「夢洲、舞洲及び咲洲において、一時滞在施設として利用可能な建物を確保する」方針だが、舞洲、咲洲への避難は夢舞大橋と夢咲トンネルが使用で…
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週刊エコノミスト
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