経済・企業 自動車
自動車業界のプラットフォーマーを狙うファーウエイ 湯進
スマートカーで業界標準を掌握しつつあるファーウェイ。自動車業界の新たな主役に躍り出る可能性が出てきた。
クルマを作らず、武器はブランド力と技術力
中国のIT大手、ファーウェイは9月10日、新製品発表会を開催し、三つ折りタイプの新型スマートフォン(スマホ)「Mate XT非凡大師」を披露した。米アップルのiPhoneに対抗する同製品の価格は1万9999~2万3999元(約40万~48万円)の3種類で予約販売の人数は685万人に達した。同社のコンシューマー、及びスマートカー・ソリューションビジネスユニット(BU)の余承東会長は、新型スマホの革新性を強調すると同時に、荷室空間を広げた2列シートのスポーツタイプ多目的車(SUV)「問界M9」も紹介。余氏は「M9は、50万元(約1000万円)以上の中国新車市場で5カ月連続での首位を維持した」と、胸を張った。
2024年上半期のファーウェイの売上高は前年同期比34.3%増の4175億元とピーク時の20年に次ぐ水準まで回復した。米国の制裁を受けたスマホ事業が復活を着実に遂げている一方、制裁後に参入した自動車事業もいち早く黒字化を果たした。「クルマを作らない」方針を繰り返し強調してきたファーウェイは、ブランド力と技術力を生かしスマートカー業界のプラットフォーマーへの野望を着々と進めている。
車両に「HI」ロゴ
ファーウェイは13年にIoV (車のインターネット)事業部を立ち上げ、駆動部品や車載電子など自動車部品業界に参入した。19年には、スマートカー・ソリューションBUを設立し、スマートコックピット、AI(人工知能)プラットフォーム、ビッグデータなどの研究開発に取り組んでおり、ドイツのボッシュやコンチネンタルに匹敵する自動車部品業界のメガサプライヤーに挑戦しようとしている。
一方、従来の部品生産と違って、レーザーレーダー、高性能センサーのLiDAR(ライダー)、カメラなどコネクテッドカー関連部品・システムは、車両を制御する頭脳であり、自動車メーカーの開発に深く関与する必要がある。そうしたなか、ファーウェイは、20年10月に「HI」(Huawei Insideの頭文字)と呼ばれるビジネスモデルを打ち出した。車載カメラとスマホが連動する機能を備えるHiCarシステム、自動運転ソリューション「ADN」を提供するスマートカーのソフトウエアサプライヤーとして、自動車メーカーを支援する方針を示した。
提携先の自動車メーカーは、車両コンセプト・乗車体験を含むユーザーインターフェース(UI)の設計・開発、エンジニアリングを行い、ファーウェイの基本アーキテクチャーとHIシステムを採用する。車両には「HI」の赤いロゴが貼られることから、ファーウェイが「EV業界の標準」の地位を築こうとする狙いがうかがえる。現在、長安汽車傘下のNEV(新エネルギー車)ブランド「アバター」、東風汽車傘下の高級NEVブランド「嵐図(Voyah)」やオフロードブランド「猛士」はHIシステムを採用している。
しかし、HIモデルの課題もいち早く露呈している。新事業を推進するスピードの違いだけではなく、ハードウエアとソフトウエアを統合する製品開発(IPD:Integrated Product Development)において、従来の自動車メーカーがファーウェイについていけないのだ。
実際、ファーウェイのIPDは1998年からIBMの開発体系を学習・吸収し、独自の開発プロセスを構築、中国のIT業界で圧倒的強さをみせつけた。自動車メーカーのSDV(ソフトウエアで定義されるクルマ)化に欠かせないドライビング、コックピット、キャビンソリューションを提供する一方、モーターや電池制御ユニット、ギアボックスなどを一体化した基幹部品「DriveONE」、LiDAR、独自OS「ハ…
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週刊エコノミスト
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