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国際・政治 東奔政走

「政治とカネ」で惨敗の自民 見通せぬ野党との連携交渉 及川正也

自公の惨敗で政局は一気に流動化した(自民党開票センターで厳しい表情を浮かべる石破茂首相)
自公の惨敗で政局は一気に流動化した(自民党開票センターで厳しい表情を浮かべる石破茂首相)

 自民と公明の与党が過半数を割る惨敗に終わった衆院選を受け、政局は一気に流動化した。石破茂首相は辞任せず、政権維持を図るが、混乱の収拾は見通せない。

「ボロボロの敗北だ」。自民党内からこんな嘆きの声が上がる。自民党は比較第1党の地位は守ったものの、自公政権が過半数割れするのは2009年以来だ。

 与党の獲得議席は215(自民191、公明24)で、与党系無所属を含めて221にとどまり、過半数233に届かない。逆に野党勢力は235と過半数を占める。

党内から不満噴出

「私に責任がある」と小泉進次郎選挙対策委員長は早々と辞任したが、これは中枢部に責任が波及することを食い止める思惑があるとみられる。

 果たして、これで党内が収まるか。敗因はもとより「政治とカネ」にある。裏金議員を非公認にしたり、比例の重複立候補を禁止したりして、それをけじめとした。

 だが、批判の矛先は、裏金議員にとどまらず、自民党全体に向けられたものだった。選挙中、「自民党を立て直す」と首相は言いながら、その具体策を示さなかった。

 さらに、非公認となった候補者が代表を務める政党支部に公認と同じ2000万円が支給されていたことが終盤になって判明。逆風に追い打ちをかけた。

 最終日に神奈川県の激戦区を回って驚いた。昼過ぎに小田原市入りした小泉選対委員長は、苦戦する牧島かれん元デジタル担当相を「政治とカネの問題にまったく関係ない」と擁護した。

 牧島氏は「自民党、何をしてくれてんだ」と怒り、「助けてください」と涙をぬぐった。その叫びが通じたか、当選はしたものの、必死の訴えには切迫感があった。

 夜には横浜・JR桜木町駅前に麻生太郎最高顧問が訪れた。若者の街、東京・秋葉原でのマイク納めを恒例とするが、今回は側近の松本純元防災相支援のために急きょ駆けつけた。

 いつもの「麻生節」をうならせ、「物価が上がり、給料も上がった。(自公の)政策が当たったからだろうが」と聴衆を沸かせたが、松本氏は落選の憂き目に遭った。

 自民党関係者が言う。「楽勝と考えられながら、公示後に厳しくなり、最後は接戦に追い込まれた候補が多かった」。牧島氏もその一人だったとされる。

 2000万円支給問題の表面化後は、公然と執行部批判をする自民候補が増えたという。「そこまでやらないと有権者の理解が得られない」「仲間内で非難合戦をやっていては、勝てるものも勝てない」とあきれる地方議員もいた。

 党内からの不満噴出を考えれば惨敗も当然だった。だが、どれだけ深刻に受け取っただろうか。投票翌日の首相の記者会見が注目されたが、目新しさはなかった。

 まず、首相は「国政の停滞を避け、政治改革や経済対策などの課題を先頭になって取り組み、日本創生を実現してまいる所存だ」と述べ、続投を表明した。

 衆院選の目標に掲げた「与党過半数」には及ばなかった以上、首相がその責任を取るのが筋だという声もあるが、それだけのエネルギーは党内には感じられない。

 一方、少数与党として今後の政権運営で最も重要なのは国会対応だ。少数与党内閣は歴史的にも短命で、直近の1994年の羽田孜内閣は2カ月しかもたなかった。

 首相は協力相手として今回、4倍の28議席を獲得した国民民主党を見込む。会見では「連立は想定していない」とする一方で、「よく協議する」と述べた。

 国民民主党も気軽に乗れる話ではない。来年夏には参院選が控える。妥協すれば勢いを失う恐れもある。対決姿勢を保ちつつ、実を得る策を慎重に検討するだろう。

内閣不信任案提出も

 首相にとって時間は限られている。11月11日から3日程度の日程で特別国会を開き、首相指名や議会の構成を決定。その後、外交の晴れ舞台に臨む予定だ。11月15~16日にはペルーでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)、18~19日にはブラジルでの主要20カ国・地域(G20)の各首脳会議に出席する。

 日中外交筋によると、外務省はどちらかの会議の場を活用し、首相と中国の習近平国家主席との会談を設定するよう調整を進めているという。

 今回の外遊では、米大統領選で勝利するのが民主党のハリス副大統領でも共和党のトランプ前大統領でも会談できるよう準備している、ともささやかれている。

 さらに、帰国後の12月初旬に臨時国会を開き、低所得者向けの給付金などの物価高対策を盛り込んだ補正予算案を提出し、審議する予定だ。

 それも、首相が呼び掛ける野党との連携交渉の行方次第では日程も大幅に変わってくる。補正予算案に国民民主党を含む野党の主張を取り込む考えも示す。

 一方、野党は臨時国会のテーマに「政治とカネ」を据える方針だ。立憲民主党の野田佳彦代表は、企業団体献金の禁止で野党共闘もあり得るとの姿勢を見せている。

 ここで野党が倒閣に動く恐れもある。政治改革をのまなければ内閣不信任決議案を提出する──。そうなれば石破首相が再び窮地に追い込まれるのは必至だ。

(及川正也〈おいかわ・まさや〉毎日新聞専門編集委員)


週刊エコノミスト2024年11月12・19日合併号掲載

「政治とカネ」で惨敗の自民 見通せぬ野党との連携交渉=及川正也

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