玉木氏の騒動が振ってわいた国民民主と第2次石破政権の距離 人羅格
衆院選の自民党惨敗後、少数与党の衆院でキャスチングボートを握った野党・国民民主党による一種の独り勝ち状態が現出した。自民は来夏の衆参両院ダブル選挙による局面転換をうかがうが、実現のハードルは高い。第2次石破茂内閣の綱渡りが続きそうだ。
いまの政治状況を映すような首相指名当日だった。11月11日、30年ぶりの衆院決選投票で石破氏が首相に再度選出されたが、メディアの関心はむしろ国民民主党・玉木雄一郎代表のスキャンダルに向かった。
衆院選直後、女性タレントと密会していたと写真週刊誌に報じられた玉木氏は「おおむね事実」と認めた。玉木氏、国民民主の勢いは今後の石破政権の運営も大きく左右する。党首続投をひとまず了承したが、仮に混乱すれば、自民は「頼みの綱」を失いかねず、ひとごとではなかった。
注目された石破首相の続投問題は、あっけなく収束した。11月7日の自民党両院議員懇談会は結局、首相続投を追認する場となった。口々に不満を表明しても、退陣を突きつけたのは、青山繁晴参院議員だけだった。
衆院選で党内力学は一変した。「裏金問題」の逆風を浴びた旧安倍派は衆院で20議席に減り、旧派閥ベースで第5勢力に落ち込んだ。動向が注目された高市早苗・前経済安保担当相は5日、議員との会食で「ガタガタしていたら野党になる」と混乱にクギを刺した。
選挙後の各種世論調査も「石破降ろし」の不発に影響した。内閣支持率はさらに下落したが、続投支持が過半数だった。「石破政権は支持できないが大敗はすべてが首相の責任ではない。野党の意見も聞きながらかじ取りをしてほしい」という感覚ではないか。
1強・玉木氏にも打撃
我が世の春を謳歌(おうか)していたのが、28議席で偶然に衆院のキャスチングボートを握った国民民主党である。予算や関連法案など、対立的な案件は、事実上同党の同意がなければ実現しない。自民党が「103万円の壁」見直しへ国民民主との政策協議に動き始めたのは、当然のことである。
「手取り増」を掲げた同党の情報発信は若者らの人気を呼んでいる。「ネット」「若者」がキーワードである点は、東京都知事選での石丸伸二・前広島県安芸高田市長への追い風現象と通底する。
少数与党政権の維持は難しい。1994年、羽田孜首相の非自民政権は旧社会党が連立を離脱し、少数与党だった。約2カ月で退陣に追い込まれ、村山富市首相による「自社さ連立」が実現する。
自民が現在の少数与党を解消する最短コースは、来年夏の参院選に衆院選を重ね、「ダブル選挙」で勝利する展開だろう。
ただし、石破内閣でそんな強気戦術は望みがたい。だから「通常国会での当初予算成立などのタイミングで首相を交代する」ことが暗黙の前提になる。またも「刷新感」頼みだ。
首相交代にはそれ相応の状況が必要である。岸田文雄前首相が退陣したのは総裁選という節目があったためだ。玉木氏は「延命に手を貸さない」と強調するが、首相に引導を渡せるだろうか。
国民民主にとって石破政権は金の卵を生むニワトリだ。打倒して自公政権の新首相に交代すれば早期解散か、連立入り要請のいずれかが予想される。与党入りは当面、メリットに乏しい。
こうした事情から「103万円の壁」は自民、国民民主双方とも合意へ引力が働きやすい。
ネット活用出遅れの立憲
自民は大幅引き上げをした場合に財源対策から別の「負担増」が生じる可能性や、高額納税者に恩恵が大きくなる点を強調することで、引き上げ幅圧縮を探りたい。ただし、玉木氏の求心力が醜聞などに影響されれば、協議の行方も不確実性を増していく。
立憲民主党も、ただちに石破内閣に退陣を迫る状況にない。野田佳彦代表も、早期の内閣不信任決議案の提出に慎重姿勢を示す。
政権交代を掲げて闘った同党だが、いま実現しても参院で「ねじれ」に直面して立ち往生するおそれがある。「衆院選はそこそこ勝ち、来年の参院選が勝負」というのが多くの幹部の本音だ。石破内閣が延命し、参院選に突入することは好都合ですらある。
むしろ課題は148議席を獲得しながら、国民民主党人気に埋没してしまった現状だろう。
衆院選での追い風は限定的だった。東京の小選挙区は自公系候補との直接対決で6敗した。区割り変更への対応遅れや、ネットの情報発信が後手に回り「昭和の選挙」をしていた候補も散見された。ネット活用の怠慢を放置すれば、参院選は到底乗り切れない。
参院選の勝敗は32ある改選数1の「1人区」の動向で決まる。立憲が存在感を発揮できなければ野党陣営も結集しない。予算委員長など12の委員長・審査会長を野党側が掌握した衆院で変化をアピールできるかが試される。
ひ弱な自民の反石破勢力、現状が居心地よい国民民主、必ずしも倒閣がプラスにならない立憲……。この構図が崩れない限り、自民党内の一部の期待に反し、首相交代の機運は高まらない。米トランプ政権の復活を控える中、首相の綱渡り戦略が問われている。
(人羅格〈ひとら・ただし〉毎日新聞論説委員)
週刊エコノミスト2024年11月26日号掲載
ズルズルと続く石破政権 来夏「W選」はハードル高く=人羅格