経済政策先導する政権の柱なく 衆院選後問われるイシバノミクス 伊藤智永
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衆院選は早くも終盤戦だが、自民党がどこまで議席減を食い止められるかが焦点となっている。石破茂首相は、解散時勢力256議席から、単独過半数の233議席割れもあり得ることを覚悟して、勝敗ラインを「自民・公明両党で過半数」に設定した。派閥の政治資金パーティー裏金事件による大幅減は避けられなくても、何とか自公連立政権は死守したい背水の陣で臨んでいる。
「奇襲戦法」は奏功
衆院解散直前、事件に関係した前職らの非公認や比例代表との重複立候補禁止といった「追加処分」をドタバタで決めたのも、党の情勢調査に基づき、「党内融和より世論へのアピールを優先した方が議席減は抑えられる」と判断したからだ。確かに決定した時、ほとんどが旧安倍派の、対象となった候補たちは反発したが、多くの候補からは「お陰で少しは有権者に説明や謝罪がしやすい。非公認や比例復活禁止をやらないより、やった方がよかった」との本音が聞かれる。
政権発足から戦後最短での解散断行には、石破氏が論戦を避けたというもっともな批判が出た。しかし、野党に小選挙区で「裏金批判」の統一候補を擁立する余裕を与えなかった「奇襲戦法」としては奏功しているようだ。共産党が小選挙区にめいっぱい独自候補を出しているのは、立憲民主党代表に共産党排除の野田佳彦元首相が選ばれたのを見て、今回衆院選で野党側が勝つ可能性は低いと割り切り、比例票を徹底的に掘り起こそうという組織防衛に入ったからだと見られている。
裏金問題を巡り、ひたすら頭を低く逆風が過ぎるのを待つしかない与党と、いくら攻めても政権交代を実現できる態勢を作れていない野党。どちらも意気上がらないのは、裏金問題が争点になっている後ろ向きな選挙の限界といえる。本来なら物価高対策やエネルギー政策、経済成長戦略など「イシバノミクス」を巡り本格論戦が行われるべきところだが、なかなかそうはなっていないようだ。
自民党総裁選で石破氏が逆転勝利した途端、外国為替市場で円相場が急速に円高へ振れ、日経平均株価の先物は一時2000円超も売られる「石破ショック」が起きた。高市早苗氏優勢の事前報道に期待しすぎた「高市ドライブ」の反動に伴う一時的な過剰反応で、その後落ち着いたとはいえ、市場の「イシバノミクス」に対する警戒感が端的に表れた。
総裁選中に「実行したい」と公言していた金融所得課税を、首相就任後の衆院本会議答弁で「現時点で具体的に検討することは考えていない」と引っ込めたように自説に固執はしないにしても、石破氏の経済政策は指向性が明確で、富裕層の負担増や法人課税の強化にかなり積極的である。
岸田文雄政権が「2030年代半ばまでにめざす」としていた最低賃金の全国平均1500円という目標を、「2020年代達成」へ大幅に前倒しすることを所信表明演説で表明。公明党も「毎年継続的に引き上げ5年以内に達成」を公約していることか…
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週刊エコノミスト
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