インタビュー「米中対立は激化必至 習政権に解見つからず」柯隆・東京財団政策研究所主席研究員
トランプ米次期政権の中国への影響などについて、東京財団政策研究所の柯隆・主席研究員に聞いた。(聞き手=安藤大介/村田晋一郎・編集部)
柯隆(か・りゅう)
1963年中国・南京市生まれ。88年来日、94年名古屋大大学院修士課程修了。専門は開発経済、中国のマクロ経済。長銀総合研究所、富士通総研勤務を経て現職。著書に『中国不動産バブル』(文春新書)など。
── 米中対立の展望は。
■必ず対立が激しくなる。関税については、「一気に60%課す」ということでは米国がもたない。10%ずつ段階的に上げていく可能性が高いだろう。ピンポイントでハイテク企業に対する政策も発動するだろう。ドローンや半導体メーカーが対象になる。EV(電気自動車)は、米国にとって本来それほどの脅威ではないが、BYDなどを対象とする可能性が高い。
── トランプ氏はディールを重視する。
■トランプ氏は「私は習近平氏の友達だ」と言ったというが、だから対中制裁をしないという選択肢はない。「米国ファースト」を実現するための最大の障壁は中国だ。トランプ氏は相手の弱みを握るのが得意だ。経済が悪く、社会不安も深刻化する中、トランプ氏は絶対譲歩しない。習近平氏も関係構築を模索するだろうが、簡単な作業ではない。
── トランプ氏は製造業の国内回帰を訴えるラトニック氏を商務長官に指名するなど、人事面からも強硬姿勢がうかがえる。
■トランプ氏は古い世代の人で、「この産業を買収されるのは許せない」というのがある。そういう点でBYDが不注意だったと思うのは、米国でピックアップトラックを販売するという判断をしていることだ。ピックアップトラックは米国のシンボルのようなところがあり、かつてトヨタ自動車が売り出した際にも相当のロビー活動を行った。BYDが本腰を入れたら、必ず潰されるだろう。
ノーベル平和賞がカギ握る?
── 安全保障面では対中強硬姿勢のルビオ氏を国務長官に選んだ。
■中国にとって一番嫌なのはルビオ氏だ。両親がキューバ出身で共産党や社会主義への理解は深いものがある。今のブリンケン国務長官は、少々のことでも我慢して相手のメンツを立てるようなところがあるが、ルビオ氏ではそういうことはありえない。
── 中国側の対応は。
■すでに「(敵に牙をむく)戦狼外交」は取り下げ、「(友好的な)パンダ外交」に切り替えてきている。王毅外相もかつてのような硬直的な話し方は今していないが、ルビオ氏とまともに会話ができないだろう。中国はこれまで米財界の大物に接触し、ロビー活動をしてもらうのが伝統的な外交だった。だが、かつて頼っていたキッシンジャー元国務長官らは死去し、人脈外交はきかない。米国産の農作物やボーイングの航空機を購入するような手法でも、トランプ氏が態度を軟化させることは考えにくい。解が見つからない。
── 緊張を緩和させる手段は。
■あり得ないような話だが、トランプ氏がウクライナ戦争を止めることができれば、ノーベル平和賞を取る可能性があり、それがカギになるかもしれない。ウクライナ戦争を止めるキーパーソンの一人は実は習近平氏だ。ロシアに兵士を送り込んだ北朝鮮の後ろには中国がいる。貿易摩擦回避とウクライナ戦争終結のディールについて習氏が協力するとは考えにくいが、トランプ氏は独特の手法を使うかもしれない。
週刊エコノミスト2025年1月14・21日合併号掲載
中国・動乱前夜 インタビュー 柯隆・東京財団政策研究所主席研究員 米中対立は激化必至 習政権に解見つからず