週刊エコノミスト Online闘論席

忘却と流れる時間=池谷裕二

 覚えたことをいつまでも忘れない抜群の記憶力。そんな能力を手にしたら状況が変化したときに以前の記憶が邪魔をして新しい環境への順応ができなくなる──。そんなデータが1月の米科学誌『サイエンス』で発表された。欧州神経科学研究所のディーン博士らによるネズミを使った研究だ。

 記憶はシナプスの重みの空間に蓄えられる。つまり、特定の神経細胞が強く結びつくことが記憶だ。その結合が徐々に弱まると、記憶があせていき、いずれ思い出せなくなる。これが忘却の実体である。

 忘却はシナプスの経年劣化ではなく、神経伝達物質のアンテナ分子(受容体)がシナプスから排除される積極的な現象で、正常な生理機能として脳回路に備わっている。ディーン博士らは受容体が排除される分子メカニズムを突き止め、そこに必要な遺伝子を取り除いた。シナプス弱化が生じないネズミの誕生だ。予想通り、このネズミは忘却しなかった。

残り370文字(全文756文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事