週刊エコノミスト Onlineワイドインタビュー問答有用

「代替エネルギーはあきらめても、循環社会実現の可能性追う」 酒井里奈=ファーメンステーション社長/731 

     微生物の力で、あるものが別のものに生まれ変わる。発酵技術を駆使し、米どころ、岩手県奥州市で、都市と農村を結ぶ地域独自の循環型社会の構築に取り組む酒井里奈さん。女性起業家として、大きな夢を描く。

    (聞き手=小島清利・編集部)

    酒井 ひと言でいうと、コメを微生物によって発酵させ、蒸留してエタノールと飼料用のエサを作るプロジェクトです。休耕田を活用して原料米を栽培し、岩手県奥州市前沢のラボでエタノールとエサを製造しています。エタノールはスキンケア商品として活用し、エサはニワトリやウシなどの家畜に与えます。

    酒井 今から10年以上前、旧胆沢(いさわ)町(現奥州市)の農家、町役場の方々による勉強会から始まりました。2007年から多収穫米の作付けを開始し、10年に奥州市の事業として本格的に小規模なプラントでの実証実験が始動しました。ファーメンステーションは、このプロジェクトでエタノール製造プラントの運営、コンサルティングを担当し、13年4月からプロジェクトを引き継いでいます。

    酒井 世界的に見るとコメは貴重な作物ですが、日本では残念ながら余っています。このプロジェクトは、農家の方々が、放棄された休耕田や減少するコメの消費を見かねて、「なんとかしてお米を作り、田んぼを生き返らせたい」という強い意志で始めました。コメを育て、美しい田園風景を取り戻し、新たな産業へつなげることを目指しています。

    酒井 約10年間、金融機関などで働いた後、発酵技術を学ぶために東京農業大学に入学したのが転機になりました。銀行ではプロジェクトファイナンスを担当し、インフラなどにも関わりましたが、自分がやりたい仕事とは何かが違うと感じていました。当時、バイオエタノールが代替エネルギーとして脚光を浴びていて、自分にも何か役に立つことができないかと、応用生物科学という理系の学問への挑戦を決意し、東京農大に飛び込みました。指導教授の縁で、岩手県でコメからエタノールを製造する実証実験に関わったのです。

    酒井 10年に奥州市の事業として本格的に小規模なプラントでの実証実験が始動しました。エタノールを製造する技術はうまくいきましたが、できあがったエタノールをどのような用途で活用するかについては壁にぶち当たりました。代替エネルギーとしての活用の壁となったのが「採算性」です。代替エネルギーとしての活用はあきらめるという結論になりましたが、それでもあきらめきれない。そこで、スキンケア用品の原料として商品価値を高められないかと、自分でやってみようと決めたのです。

    酒井 東京農大卒業後、09年にファーメンステーションを設立した時は、コンサルティングをやるつもりで、まさかメーカーになるとは予想していませんでした(笑)。現在では、奥州市の工場で、地元出身で奥州の風景を愛するスタッフらが、発酵もろみと対話しながら、丹精込めてエタノールを作っています。

    酒井 一般向けの商品開発では、アウトドアスプレーやボディーミルクなどプロジェクトごとに、クラウドファンディングを中心として資金調達しました。これまで5件、296万円を調達しています。目標額が集まらなかったことはありません。本当につらかったのは、発酵という自然の力で生まれたエタノールを使う化粧品などを売るにあたり、ベンチャー企業を支援している人たちから「市場が見えない」「本当に売れるのですか?」と言われ続けたことです。

    酒井 絶対に売れるという確信があったので、「市場が見えないのなら、市場を作ってやろう」という意気込みで仕事をしました。当初、コメ由来のエタノールを使った化粧品、スキンケア用品の良さを理解してもらえるメーカーはそれほど多くありませんでした。自社で付加価値の高い商品を作ることによって、市場を開拓していったのです。

    酒井 そんなことはありません。そのほかにも、岩手の工場移転問題が浮上したり、装置がうまく作動しないとか、ピンチは山のようにありました。でも、「困った」と声を上げると、周囲の誰かが助けてくださって、何とか乗り切ることができたのです。仲間に恵まれていると感謝しています。

    酒井 コメからエタノールを作る工程で発生する蒸留残渣の「コメもろみ粕(かす)」は、アミノ酸などを含む栄養価の高い飼料にもなります。発酵の過程で使われる酵母などが含まれているためで、飼料としても高い価値が期待されます。

    酒井 奥州市においても、地元の養鶏農家さ…

    残り2843文字(全文4674文字)

    週刊エコノミスト

    週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
    有料会員になると、続きをお読みいただけます。

    ・会員限定の有料記事が読み放題
    ・1989年からの誌面掲載記事検索
    ・デジタル紙面で過去8号分のバックナンバーが読める

    通常価格 月額2,040円(税込)

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    3月3日号

    4月施行 働き方改革法 労基署はここを見る20 企業の成長を促す法改正 会社を作り直す覚悟を ■村田 晋一郎/吉脇 丈志23 働きやすい職場を作るビジョンを示せ ■安中 繁24 同一労働 同一賃金 待遇差に合理的な説明が可能か ■河野 順一27 役割・待遇の明確化 会社の創造的破壊を ■向井 蘭30 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ PR

    最新の注目記事

    ザ・マーケット