江戸と似た古代ローマに信仰を貫く葛藤を読む=本村凌二
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英米系の学者から日本人作家の小説を推してくれと頼まれたことがある。私が挙げた数冊の中でも、江戸時代のキリシタン弾圧下の司祭の苦悩を描いた遠藤周作の『沈黙』がひときわ印象深いという感想だった。
一神教社会に生きる欧米人は論理的思考には自信があるという。だが『沈黙』を読むと、長崎奉行が、信仰は信仰として内心に保ちつつ、形式として「踏み絵をすればいいではないか」と話す際の、多神教社会の日本人ならではの説得の筋道に、打たれるものがあるらしい。
今日、チュニジアにあるカルタゴの遺跡を訪れると、円形闘技場の廃虚を見ることができる。203年、そこで処刑された若い女性の死を考察したジョイス・E・ソールズベリ『ペルペトゥアの殉教 ローマ帝国に生きた若き女性の死とその記憶』(白水社、5200円)。最後の日々を日記に残したがために、信仰と女性・母親という思想の葛藤をたどれるまれな事例である。
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週刊エコノミスト
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