教養・歴史書評

中国 幻想の中に真実が どん底から中国を見る=辻康吾

 林立する超近代的ビル群、疾走する高速鉄道に目を奪われる一方、失業者の群れや極貧の山村なども確かに存在している。中国社会全体を正確に評価することは極めて難しい。その溝を埋めてくれるのが一部の文学作品である。

 最近の一例が廖亦武(リャオイウ)の『輪廻的螞蟻(輪廻(りんね)のアリ)』(2018年、台北・允晨文化公司)だった。本書は学術書ではなく、文学作品としての本来の価値は別にあるのだが、すでに邦訳が出ている『中国低層訪談録インタビューどん底の世界』(08年、集広舎、4600円)のタイトル通り、これまでの廖の作品は、中国社会を底辺から描いてきた。

 廖亦武は1958年、四川省生まれ。体制批判的詩人として活躍していたが、89年の天安門事件に際し、長詩『大屠殺』を天安門広場で発表、逮捕された。4年間の服役中、手帳にアリのような細字で作品を書き続け、ひそかに外部に送り出していた。出獄後は笛を吹きながら各地をさまよい、殺人犯、泥棒、密輸業者、占い師、同性愛者、乞食(こじき)など社会の底辺の人々に交じりながら作品を発表していたが、当局の監視と抑圧を受…

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