教養・歴史書評

中国 異文化接触の現場 チベットの高原で=辻康吾

     昨年のベネチア国際映画祭で脚本賞を受賞した『轢(ひ)き殺された羊 撞死了一隻羊 Jinpa』。ペマ・ツェテン監督は、この映画の脚本家でもあり、同時に原作者の一人でもある。『ティメー・クンデンを探して』(勉誠出版、3000円)など日本でも翻訳がすでに紹介されており、文学者としても知られている。

     このたび、彼の映画の原作となる『撞死了一隻羊』(「一匹の羊を轢き殺した」、広東花城出版社)が手に入ったので、一読した。同書は他の2編と合わせた短編集だが、タイトルにもなっている「撞死了一隻羊」からは、茫漠(ぼうばく)たるチベット高原の風光の中でチベット人の魂の底に流れるラマ仏教の哲学が感得される。

     平凡なトラック運転手が一匹の羊をひき殺してしまう。死んだ羊は市場で売るか、食べてしまってもよいのだが、なぜか運転手は大枚をはたいて羊の遺体をチベット最高の鳥葬にし、祈りを捧げる。その後彼は、市場で羊肉を買って愛人のところに行く。運転手は無意識のまま現世での積善によって後世の福を願ったのだろう。

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