週刊エコノミスト Onlineワイドインタビュー問答有用

「延命医療も、本人の満足を物差しにして」 終末期医療を支える=会田薫子・東京大学死生学特任教授/750

     高度で過剰な延命医療がかえって患者や家族を苦しめるなど、高齢者の終末期医療のあり方が問われている。NHKの特集番組でコメンテーターを務めるなど、最前線に詳しい研究者に聞く。

    (聞き手=山崎博史・ジャーナリスト)

    会田 人生の最終段階における医療は、医療技術の進展によって、治療法の選択肢がいろいろある一方、患者さんやその家族の価値観が多様化しています。治療とケアの意思決定は、本人意思の尊重が基本ですが、どのようにして意思決定を行うかが切実な課題となっています。哲学・倫理学・医学・心理学などの学際的立場から、意思決定を支援することが臨床死生学の中心的な課題です。

    会田 医師・看護師からの聴き取りなど、医療現場の実情を調査・研究し、その成果を「意思決定支援ツール」として文書化したり、論文や本などの形で広く社会に発信したり。あるいは国内外の研究成果や会議などの知見を基に、医師・看護師へのセミナーや講演会を開いて研さんの場を提供したり、現場の自主学習のリーダー養成講座を開催したり、さまざまな形で支援しています。

    会田 WHO(世界保健機関)が緩和ケアの定義と考え方を発表し、緩和ケアの取り組みが世界的に推進され始めた1990年代、がんの痛みの大部分はモルヒネでとれるのに、日本では「モルヒネを使うと、患者が早く死んでしまう、中毒になってしまう」と、迷信が信じられていました。ドクターたちの多くはモルヒネを使わず、「がんで痛いのは当たり前だ」なんて平気で口にしていたようです。そんな当時の状態に、「考えられない、人権侵害だ」と憤慨したことがきっかけだったように思います。

    会田 射水市の事件後、ドクターたちは、延命医療は終了せず続けてさえいりゃ文句言われないだろうって、そんな雰囲気にどんどんなっていって、最悪でした。結果的に殺人容疑に問われなくても、騒動になること自体を嫌がっていた。しかし最近は、「患者さんや家族が希望すれば延命医療を行うけど、希望しないならやらない。やらないことも通常の選択肢なんだ」という認識が広がっているように感じます。

     日本老年医学会が12年に終末期医療・ケアのガイドラインとして「立場表明2012」を発表した、それが大きかったと思います。長寿の時代に、長い年月を生きてきた人たちをみとるドクターたちだからこそ、医学をベースにしつつも、「本人の満足」を物差しにするという画期的な方向性を打ち出すことができたのだと思います。

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