本当に「私」を生かすアイデンティティーを=ブレイディみかこ
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うちの息子は、アイルランド人の父を持ち、日本人の母を持ち、英国で生まれ育っている。だからパスポートも三つ持っている。彼は白人であり、非白人でもあり、欧州人でもあり、アジア人だ。その実、自分はそのどれでもないという感覚もあり、自分のアイデンティティーは一つではないし、誰かに「お前はこれだ」と決められるのは変だと言う。
そんな12歳の息子がいつも言っているようなことがそのまま書かれていて驚いたのが、アミン・マアルーフ著『アイデンティティが人を殺す』(ちくま学芸文庫、1100円)だ。1949年にレバノンで生まれた著者は、祖国の内乱をきっかけに76年にフランスに移住した。彼もまた、人の帰属先は一つではないし、誰からも一つの帰属先を選ばされる必要はなく、その帰属先のために「立ち上がれ」とか「戦え」と強制されることがあ…
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週刊エコノミスト
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