テクノロジースマホAIで病気を治す医療&ビジネス

診療・薬の情報が手元に AIでがん見逃しゼロへ=下桐実雅子/桑子かつ代

    (出所)編集部作成
    (出所)編集部作成

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     <スマホ AIで病気を治す 医療&ビジネス>

     地域医療を担う東京都足立区の等潤病院(ベッド数164床)。今年5月、同病院で健康診断や人間ドックを受けた人が自分の健診結果や検査画像をスマートフォン(スマホ)やパソコンで見られるシステムを導入した。秋には、受診した際の診療データ、例えば、病名、診察中の処置や検査結果、処方された薬などの情報も閲覧できるようになる。現在、電子カルテの対応などを準備中だ。

    特集:スマホAIで病気を治す医療&ビジネス

    これまでは病院が保管したMRI画像データを、スマホでいつでも見られる(円内は等潤病院の伊藤雅史院長)
    これまでは病院が保管したMRI画像データを、スマホでいつでも見られる(円内は等潤病院の伊藤雅史院長)

     写真は、東京都杉並区の男性(51)が8月8日に受けた脳ドックの画像データだ。「カルテコ」というシステムに会員登録をすると、MRI(磁気共鳴画像化装置)やレントゲンなどの画像や診療情報、健診結果がいつでも見られる。また、過去に受けた健診結果も保管されるので、自分の健康状態の推移が分かる。過去に処方された薬の名前や検査結果をスマホで簡単に確認でき、他の病院を受診するときにも便利だ。

     同病院の伊藤雅史院長は、「患者や家族と診療情報や検査結果を共有することで、自分の病状や受けている医療への理解が深まる。こうしたデータは救急病院の受診時や災害時にも役立つ」と話す。病院経営にとっても「選ばれる病院」づくりの特色にもなる。

     このシステムは民間企業メディカル・データ・ビジョンが病院向けに実施しているサービスの一つで、全国7病院が導入している。今年4月、千葉大学付属病院が患者サービス向上の一環で、このシステムを利用する実証実験を始めた。

     患者が自分の診療情報を管理する仕組みは「PHR(パーソナルヘルスレコード)」と呼ばれ、国も導入を検討しており、近く、厚生労働省の専門家会議で具体的な検討が始まる。

    「医師として、医療現場で使いやすいAIを目指している」と語る多田氏
    「医師として、医療現場で使いやすいAIを目指している」と語る多田氏

    0・02秒でがん判定

     AI(人工知能)を使ったがん診断の実用化に向けた動きが急速に進んでいる。医療ベンチャーAIメディカルサービスCEO(最高経営責任者)の多田智裕医師らのグループだ。リアルタイムで胃や大腸を観察する内視鏡検査で、がんを見つけるAIを2018年、世界で初めて開発した。がん研究会有明病院や大阪国際がんセンター、東大病院など全国72医療機関と連携、膨大な数の内視鏡検査画像を収集しAIに学習させてきた。

     国の薬事承認を目指しており、今年から来年初めにかけて、治験に入る計画だ。多田医師は「がん見逃しゼロを目指している。まずは胃がんから製品化し、大腸がん、食道がんと順次進めたい」と意気込みを語る。

     胃がんは大腸がんに次いで日本人に多い。胃が荒れている状態でがんを見つけるのは難しく、早期の胃がんの1~2割は見逃されているといわれる。だが、AIは画像1枚当たり0・02秒の速さで判定し、がんが見つかれば、その部位を枠線で知らせる。正確さは熟練した専門医並みだ。画像診断の専門医不足は課題となっている。

     この分野は日本が先行しており「世界で戦える」と多田医師。「内視鏡にAIのソフトをつなぐだけなので、患者に追加の負担はない。最終的な診断は医師が行うので、優秀なAIアシスタントが一緒に探すというイメージだ」と話す。

    生活習慣などのデータと併せた遺伝子情報の解析も進みそうだ(Bloomberg)
    生活習慣などのデータと併せた遺伝子情報の解析も進みそうだ(Bloomberg)

    遺伝情報提供でポイント

     日本最大の約75万人の遺伝子情報データベースを保有する遺伝子検査会社ジェネシスヘルスケアは今年4月、個人がスマホを使って自分の遺伝子情報を企業などに提供したり、ポイントを受け取れるサービスを始めた。遺伝子情報を提供した個人に対価を還元する仕組みは初めてだという。

     提供できるのは、同社が販売する遺伝子検査キット「ジーンライフ」で検査を受けた人。専用アプリで遺伝子検査の結果を見られるほか、自分の遺伝子情報を製薬や食品などの企業や研究機関などに提供できる。受け取ったポイントは同社のサイトで扱う商品と交換できるほか、年内には「楽天ポイント」と交換できるように準備を進めている。企業側からは、製品開発や新サービスの開発に遺伝子情報を活用したいというニーズがあるという。

     同社執行役員の萩迫孝弘・ライフサイエンス事業本部長は「遺伝情報を活用して新薬開発などにつなげてほしい。また、アプリを通じて個人と接点を持ち続けることで、最終的には遺伝情報を核に、睡眠時間、運動の状況といった個人の情報を併せて解析し、生活の質の改善を提案していきたい」と語る。

     医療ビッグデータを軸に、私たちの生活が変わろうとしている。

    (下桐実雅子・編集部)

    (桑子かつ代・編集部)

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