週刊エコノミスト Online書評

アメリカ トランプ時代にヒット、明るい退役軍人の自伝=冷泉彰彦

 トランプ政権が登場すると、大統領の政治姿勢を持ち上げる賛成派や、逆に厳しい批判や暴露を中心とした反対派による「トランプ本」が数多く出版された。だが、トランプを支持する保守派というのは、トランプ派である以前に、やはり「アメリカの保守派」である。そのことを象徴するような退役軍人の自伝が売れている。

 書名は “Thank You for My Service” という。タイトルからして、かなりひねりが効いている。このフレーズはもちろん、“Thank you for your service.” から来ている。つまり軍人や退役軍人に対して「あなたの軍役における貢献に感謝します」という意味だ。だが、著者のマット・ベストは「自分の軍役に対してありがとう」という一種のパロディーにしている。

 含意としては「兵役に行った自分は偉い」とか「兵役のおかげでサクセスした」というような意味だが、要するに退役軍人の伝記でありながら、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や戦争への疑問などは皆無、ただひたすら「軍隊はすごかった」という自慢話が主となっている。

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