テーマ 熟年世代の診察室
男性脱毛症=段勲/1
再生医療を髪の毛に応用する動きが出ている。個人によって差があるが、研究は進む。
ニュ ーヨーク・ヤンキースの田中将大投手(30)は5年前の2014年7月、右肘の損傷治療に、「PRP(自己多血小板血漿(けっしょう))療法」を選択した。
血液に含まれる血小板の機能を治療に生かしたPRPは、再生医療の一つで、1998年、米国・マイアミ大学で、顎骨(がっこつ)再建治療に初めて適応された。以来、臨床研究が進み、最初は創傷治療や美容、さらに整形外科でも使用されるようになる。
このPRP療法に、日本でも早くから関心を抱いていた医師がいた。「新東京クリニック」(千葉県松戸市)の美容医療・レーザー治療センター長の瀧川恵美医師である。
防衛医大の大学院時代からPRPの研究に着手し、「PRPを注射すると皮膚にどのような変化が起こるか、マウスやラットを使って研究しているうちに、毛包(毛を取り囲む組織層=一般的には毛穴)が増えていることが分かった。これは毛髪の成長を促すのではないかと思い、研究を続けた」。
こう語る瀧川医師は、海外の論文から植毛術にPRPを併用すると生着率が向上するといった研究論文を見つけ出す。薄毛を気にするボランティアの協力などを得て臨床試験を重ね、11年に世界に先駆けてPRP療法を「脱毛症治療」に応用する研究論文を発表した。
加齢によって毛が抜けていく脱毛症の主な原因は、男性ホルモンの影響や、ストレスなどである。瀧川医師は、4年前から男性脱毛症のPRP治療外来をスタートさせた。
「男性脱毛症は、早いと20代後半、30代から徐々に増えていく。50、60代ではほぼ半数の人が気になる症状ではないか」
では、PRP療法による「脱毛症治療」とはどのような手順を踏むのか。
治療を受ける患者から、平均約40 ccの血液を採取する。採取した血液を遠心分離機にかけ、その1割、約4ccのPRPを抽出する。
PRPを抽出している間に患者は、表面麻酔(クリーム)とブロック注射で麻酔(脱毛部分の面積によっても違うが、眉毛の上、首の付け根あたりの4カ所)を打つ。
こうした治療の準備を整え、脱毛部位に、PRPを注射器で6~7本分。だいたい1センチ間隔でまんべんなく打つ。
1コースの治療期間は、月に1回の通院で、平均して半年~1年。治療効果には個人差があり、20~30代の若い年代層なら、1回の治療で産毛が生えてくる事例もあるという。瀧川医師は、「最近の例で、遠方から新幹線で通院していた50代の男性患者が、内服薬(プロペシア、ザガーロなど)と併用しながら半年間ほど治療を受け、改善が見られた。PRP療法は、基本的に毛根が残っていたら、円形脱毛症などどのようなタイプの脱毛症でも適応できる」。
問題は治療費である。保険適用外で、PRP1cc当たり3万円。1回4ccの治療で12万円になる。何回の治療を受けたら毛髪が増えてくるのか。個人差が大きく、患者の満足度も異なるようだ。
(段勲・ジャーナリスト)