週刊エコノミスト Online書評

簡単なことが難しい現代 脱出の夢を見続ける恐怖=美村里江

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 友人にオススメ本を聞かれ、書名を答えたところ「芥川賞のね」と言われ、恥ずかしながら受賞を知った。手に取ったのは表紙の不気味な可愛らしさから。『むらさきのスカートの女』(今村夏子著、朝日新聞出版、1300円)。内容も表紙絵に負けず、アンバランスさが魅力だった。

 いつもむらさきのスカートをはいている女性。少し風変わりで、近所の子どもたちがタッチして逃げていく遊びを考案するなど、その界隈(かいわい)ではちょっとした有名人である。主人公はその女性を観察し、なんとか友人になろうと画策するが……。「大人になってから自然と友人になるのって難しいよなぁ」と、分かった気になって読んでいたら、アッという間に物語の湿度が増し、暗雲が垂れこめた。不穏さは募り続け、最後は1人の女性が失踪する。

 姿の見えぬ主人公、自称「黄色いカーディガンの女」。この主人公による「語り」のみで進行する物語ならではのオチだ。しかし、一本取られた!という爽快感はなく、童話的冒頭とは反対の薄暗さに落ちる。

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