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週刊エコノミスト Online 書評

『行動経済学の使い方』 評者・小峰隆夫

著者 大竹文雄(大阪大学教授) 岩波新書 820円

不合理で偏りある人間を主人公にした経済学

 行動経済学のエッセンスと有用性を分かりやすく伝える好著だ。本書ではまず、行動経済学の基礎知識が簡潔に示され、「損失回避」や「フレーミング効果」(同じ内容でも表現の違いで意思決定が異なること)、ヒューリスティックス(直感的意思決定)などの基本概念が実例とともに紹介される。伝統的経済学では、効用や利益の最大化を目指して合理的に行動する消費者や企業が主人公だ。すると「我々はそんなに合理的かな」とつい思ってしまう。これに対して、行動経済学ではバイアス(偏り)を持つ人間が主人公だ。その議論を聞いた人は「確かにそうだな」と納得し、理論の世界が一段と身近になったように感じる。この納得性が行動経済学の大きな魅力の一つだ。

 行動経済学は、我々の意思決定をより望ましい方向に導く力を持っている。そのカギとなるのがナッジだ。ナッジは「軽く肘でつつく」という意味で、行動経済学の知見を使って、選択の自由を確保しながら人々の行動を変えることである。強制力を伴わないし、大規模な資源投入も不必要だ。この豊かな応用性が行動経済学のもう一つの大きな魅力だ。

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