外貨建て保険 投資に不適な“高”手数料 運用するなら外債で十分=横川由理
低金利の影響で預金や円建て保険の魅力が薄れる中、銀行窓口を経由した外貨建て保険の販売件数が大幅に増えている。金融庁の調査によると、2018年度の販売額を16年度と比べると、地銀で1・88倍、主要行で1・34倍に増えた(図1)。販売が伸びた要因は、銀行がリスクを取りたがらない顧客に、元本割れのリスクを説明するどころか「元本保証です」とまで言い切って外貨建て保険へ誘導しているからだ。実際、販売の伸びとともに苦情も増え続け、生命保険協会によれば外貨建て保険の苦情件数は6年で約4・3倍に急増している(図2)。 特集:ダマされない生命保険
外貨建て保険は、保険料の払い込みから保険金の支払いまで、すべて外貨建てで行われる。元本保証なのは外貨ベースであって、円での保証はない。保険金や解約返戻金を円で受け取る場合、円高になっていると元本割れするリスクがある(24ページ図3)。円から外貨、外貨から円に両替する際に為替手数料もかかる。
投資信託の「倍以上」
それにもかかわらず、銀行で資産運用の相談を行うと真っ先に勧めてくるのは、銀行が得る販売手数料が群を抜いて高いからだ。販売手数料は円建て保険では保険料の2~3%、投資信託は基準価額の0~3%程度なのに対し、外貨建て保険は保険料の6~8%にものぼる。以前は、販売件数の多い銀行には手数料をさらに上乗せする保険会社もあったが、現在は自粛傾向にある。
定期預金が満期を迎えたり、退職金など大きな入金があったタイミングで「今後の運用方針について相談しましょう」と、銀行から連絡が来る。銀行窓口に出向くと、行員は円建て定期預金の金利の低さを強調しつつ、「お客様は毎日価格が変動して一喜一憂する商品と、確実に資産が増えていく商品とでは、どちらがお好みですか」と尋ねる。これは「投資信託と外貨建て保険のどちらがよいか」と聞いているわけだが、明らかに外貨建て保険に誘導している。
別の銀行では、若い男性行員から「定期預金の金利は0・01%です。こちらの外貨建て保険の積立利率は2%以上と高いことが特徴です。外貨建て保険といっても、円で支払いをして円で受け取りますから心配ありません」とまで言われたこともある。顧客は定期預金と似たイメージで外貨建て保険の契約を行い、保険に加入したという自覚を持たない人も多い。
「積立利率」の誤解
また、積立利率は2%といっても、保険という商品は保険料の中に保険会社の経費と利益が含まれており、全額が2%で運用されるわけではない。保険料は純保険料と付加保険料に分けることができる。純保険料は将来の保険金の支払いに充てられ、付加保険料は保険制度を運営する経費と利益から構成されている。
ライフネット生命の定期保険の例で見てみよう。40歳男性が1000万円の定期保険へ10年間加入した場合、保険料は月額1925円。このうち、純保険料は1365円。付加保険料は560円だ。一方、同じ条件で算出したかんぽ生命の保険料は3800円である。純保険料は40歳男性の死亡率や金利から割り出すため、基本的にどの保険会社でも大差ない。かんぽ生命の付加保険料は2435円程度であることが分かる。
保険の積立利率は、あくまでも純保険料のみに適用される。一方、預金は金利が低いとはいえ、全額が0・01%で運用されるため、同じ土俵で両者を比べること自体、おかしいといえるだろう。
外貨建て保険には養老保険、終身保険など多くの商品がある。このうち、養老保険は保障機能と貯蓄機能を兼ね備えた商品だ。例えば10年間の養老保険では、10年以内に死亡した時には死亡保険金が、満期まで生存していた場合には満期保険金が支払われる。
昭和の終わりから平成の初めにかけて販売されていた一時払い養老保険の積立利率は高く、10年で2倍近くに増えたという経験がある人もいるだろう。しかし、保険は債券を中心に運用する商品であり、低金利の現在、円建ての養老保険では利回りで販売手数料などのコストをまかないきれず、確実に元本割れしてしまう。外貨建て保険が台頭してきた背景には、こうした円建て保険が売れずに困った保険会社や銀行が外貨建てに殺到したことが背景にある。
「33万円」も引かれる!
外貨建て保険の付加保険料はどの程度なのか。商品の仕組みが複雑なため見えにくいが、10年満期の米ドル建て一時払い養老保険に、40歳の男性が500万円を投じたケースで検証してみよう。一時払いとは、契約時に保険料を一括で支払うタイプだ。
今年10月1日現在、ある保険会社の定める入金用の為替レートは1ドル=108・69円。ちなみに、同日の米ドルレートは108・13円。この入金用為替レートには、為替手数料が含まれているため、1ドルにつき56銭ほど高いことが分かる。この手数料は銀行の利益となる。基本保険金額は、500万円を入金時の入金用為替レート(108・69円)で米ドルに換算した4万6003ドルとなる。
この商品は予定利率を2・1%とうたい、10年が過ぎて保険期間を満了した場合、受け取れる満期保険金は5万2811・44ドルになるという。一見、国内で運用する利回りよりも高く、10年後には6800ドル超多く受け取れるように思ってしまうが、ここに大きな錯覚がある。
もし、基本保険金額の4万6003ドルを年2・1%の積立利率で10年間運用すると、
「4万6003ドル×(1+0・021)の10乗=5万6629・61ドル」
となり、満期保険金はこの金額よりも3818ドル少ない。なぜ、こうした差額が生じるのか。試しに基本保険金額の4万6003ドルを10年間運用して5万2811・44ドルになる利回りを計算してみると、
「4万6003ドル×(1+利回り)の10乗=5万2811・44ドル」
であり、逆算すると利回りは1・39%となる。つまり、予定利率2・1%は基本保険金額に対する積立利率ではないのだ。
積立利率を2・1%に合わせるためには、元本を減らす必要がある。そこで、年2・1%の積立利率で10年間、複利運用して、満期保険金と同額になる元本を求めると、
「元本×(1+0・021)の10乗=5万2811・44ドル」
であり、ここから逆算すると元本は4万2901・31ドルになった。基本保険金額と比べると、3101・69ドル少ないことが分かる(図3)。この3101・69ドルが付加保険料、すなわち契約初期費用と保険契約関係費用であり、保険会社が経費と利益に充てる部分だ。この日の為替レート(1ドル=108・13円)を用いると、33万5385円にものぼる計算だ。
「保険」の機能ほぼなし
さらにこの商品には、保険としての機能がほぼない。不慮の事故など災害死亡の場合には満期保険金と同額の死亡保険金が支払われるが、病気死亡の場合や解約返戻金は払い込んだ保険料から1ドルも増えることはない。17年の人口動態統計によれば、不慮の事故による死者数は全体のわずか3%であり、保障の機能は極めて限定的と言える。限定的である分、これでも保険契約関係費用は養老保険よりも抑えられているのだろう。
投資性の強い商品であるが、運用目的なら、米国債や外貨建てMMF(公社債投資信託)の方が手数料が安く利回りも高い。米国債における利回りは9月26日現在で1・69%。もし、4万6003ドルを10年間複利運用すると、5万4396・20ドルになる計算だ。満期保険金より1584・76ドル(税引き前)多いことが分かる。もはや、外貨建て保険に投資を行うメリットは見当たらない。
(横川由理 FPエージェンシー代表、ファイナンシャルプランナー)