教養・歴史書評

『隠された奴隷制』 評者・浜矩子

     恐ろしい本である。その恐ろしさの本質が次のくだりに凝縮されている。「自分自身が『奴隷』であることに気づいていない『奴隷』。主観的には自分は『最大の自由』と『個人の完全な独立性』を享受していると思っている『奴隷』。」

     この自覚症状なき奴隷たちは、資本主義の展開過程の中で産み落とされた。工場労働者としての彼らの誕生プロセスとその生態を、歴代の啓蒙(けいもう)思想家たち、そしてカール・マルクスが論じている。論者たちの分析と主張を徹底追跡しているのが、本書だ。その意味で、本書は思想史本である。

     だが、読み進むうちに、そのことを忘れる。21世紀の労働を語っているとしか思えなくなってくる。冒頭の引用箇所は、マルクスとエンゲルスの1845年の共著『聖家族─批判的批判の批判』に関する著者のコメントである。だが、もしも、これらの言葉に本書の中ではなく、単独の記述として出会ったのであれば、評者は、これは今日のギグ・ワーカーのことだと思い込んだに違いない。

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