教養・歴史書評

中国 ポリティカル・コレクトネスの暴走=辻康吾

     上海にある復旦(ふくたん)大学の葛剣雄(かつけんゆう)教授の一文「時代がもたらした人間性の歪曲」(葛剣雄文集6『史迹記踪』所載、2015年、広東人民出版社)を読んだ。同教授は、文革期の暴力を伴った思想・言論への極端な抑圧や闘争の結果、人々は命を守るため嘘(うそ)を吐かざるをえなくなり、文革後も「心有余悸」(心に怯えを残す)だけでなく、さらには「心有預悸」(心に将来への怯えを抱く)ようになったと記している。

     確かに文革期には、「毛沢東思想」が唯一の真理とされ、さらには毛沢東の片言隻句(へんげんせきく)が至上命令として人々を流血の武闘に導いた。問題は「毛沢東思想」や、毛沢東の「最高指示」が理解されたためではなく、全員が毛沢東を神格化し、「我こそが真の毛沢東主義者」だと名乗って争ったことにある。葛教授は「中国のマルクス主義は、より一面的で偏ったものとなり現実から遊離し、人間性に反する空(むな)しいスロー…

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