教養・歴史書評

中国 ポリティカル・コレクトネスの暴走=辻康吾

 上海にある復旦(ふくたん)大学の葛剣雄(かつけんゆう)教授の一文「時代がもたらした人間性の歪曲」(葛剣雄文集6『史迹記踪』所載、2015年、広東人民出版社)を読んだ。同教授は、文革期の暴力を伴った思想・言論への極端な抑圧や闘争の結果、人々は命を守るため嘘(うそ)を吐かざるをえなくなり、文革後も「心有余悸」(心に怯えを残す)だけでなく、さらには「心有預悸」(心に将来への怯えを抱く)ようになったと記している。

 確かに文革期には、「毛沢東思想」が唯一の真理とされ、さらには毛沢東の片言隻句(へんげんせきく)が至上命令として人々を流血の武闘に導いた。問題は「毛沢東思想」や、毛沢東の「最高指示」が理解されたためではなく、全員が毛沢東を神格化し、「我こそが真の毛沢東主義者」だと名乗って争ったことにある。葛教授は「中国のマルクス主義は、より一面的で偏ったものとなり現実から遊離し、人間性に反する空(むな)しいスロー…

残り568文字(全文973文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で過去8号分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

6月6日号

上がる金&揺らぐドル 史上最高値への地殻変動16 米実質金利との逆相関 崩れた背景に中銀の買い ■村田 晋一郎/谷道 健太19 これで分かった! 「金」の基礎知識 Q&A ■池水 雄一 徹底展望 2023年末 金価格の見通し22 2300ドル 非民主的国家が買い増し 西側への不信で分断拡大 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事