米国の足元に忍び寄る景気拡大の終わり=編集部
「この冬もクリスマスツリーの価格は高い。誰もがユーフォリア(多幸感)に浸っている」──。資産総額約4600億ドル(約50兆6000万円)の米大手資産会社プリンシパル・グローバル・インベスターズのチーフ・グローバル・エコノミスト、ロバート・バウアー氏が語る。米国人にとってクリスマスは家族と過ごす1年で最大のイベントで、ツリーの価格は米景気の今を映す指標でもある。
全米クリスマスツリー協会によると、ツリー1本の平均購入額は2018年、前年比4%上昇の78ドル(約8600円)と、08年に比べて倍以上の水準。バウアー氏によれば、19年も数%程度高くなっているようだ。09年7月から始まった現在の米国の景気拡大は、すでに10年超と過去最長を記録する。
雇用も好調で、米労働省が発表する19年11月の失業率は3・5%と、半世紀ぶりの低水準。同月の非管理労働者の平均時給は、前年同月比3・7%増と高い伸びを続ける。しかし、バウアー氏は「賃金上昇が企業業績の圧迫要因となり、20年後半には業績が落ち込む可能性がある。長期的な景気サイクルの終わりが近づいている」と警鐘を鳴らす。
賃金上昇と企業業績の停滞が続いた後に景気後退に陥るのは、01年のITバブル崩壊やリーマン・ショック(08年)の前と同じパターン。実際、米S&P500株価指数の構成銘柄の1株当たり利益は19年11月末、前年同月比0・3%減と、月次ベースでは3年2カ月ぶりのマイナスに。賃金の伸びが業績を8カ月連続で上回っている。
自動車販売の「異変」
異変はすでに世界全体に及んでいるかもしれない。ある自動車業界関係者によれば、「日本自動車工業会は、20年の世界販売がさらにマイナスになると予想している」と明かす。世界の自動車販売台数は17年まで8年連続で増加したが、18年は前年比0・6%減の9505万台。19年はさらに減少幅が拡大する見込みで、米国、中国、欧州の失速を補ってきたインドも息切れ。20年の見通しも暗い。
日本取引所グループのまとめでは、米株式市場に新規上場した企業のうち、赤字で上場した企業の比率は18年は81%と、ITバブルに沸いた00年(80%)を上回っていた。世界的なカネ余りと、新興企業への高い期待が上場を支えた形だ。米株価指数も19年12月、米中貿易摩擦の「第1段階の合意」を好感し、最高値の更新を続ける。しかし、その足元で景気後退が忍び寄っているとすれば、20年の世界経済は「最後の宴(うたげ)」となる。
(編集部)