週刊エコノミスト Online 挑戦者2020
橋本舜 ベースフード代表 完全栄養食で健康をお手軽に
人に必要な栄養を手軽にとれる麺、パンを提供。食べるだけで健康になれる「食のイノベーション」を目指す。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=白鳥達哉・編集部)
昔は専業主婦が栄養バランスのいい“一汁三菜”の料理を作ることが当たり前でしたが、今は共働きの家庭が多く、女性活躍も叫ばれる時代。日々の忙しい生活のなかで、十分な栄養をとっている人は多くありません。そこで私たちは、人間に必要なすべての栄養素を盛り込んだ「完全栄養食」と呼ばれる麺(ベースヌードル)とパン(ベースブレッド)を提供しています。
最近の食事は糖質が中心で、カロリーは足りていてもビタミンやミネラルが不足しがちになっており、生活習慣病の問題が大きくなっています。サプリメントを飲んでいる人もいますが、栄養バランスを計算した上で必要なものをきちんと補えている人は少ない。
ベースヌードルやベースブレッドは、小麦粉の代わりに全粒穀物と豆類、海藻類など栄養豊富な原材料を使い、栄養計算をきちんと行っているのが特徴です。食事の楽しみを損なわず、栄養を気にしなくても健康な食生活が送れる「未来の主食」をコンセプトにしています。1食でとれる栄養は1日に必要な量の3分の1。少ないように思えるかもしれませんが、学校の給食と同じ考え方で、栄養計算された食事を1日に1食とることで健康の下地が出来上がるとの考えに基づいています。そのため1日1食、月に20食とることをおすすめしています。他の食事は好きなものを食べても問題ありません。
社会問題に挑戦
DeNAで新規事業を担当していたころに、少子高齢化による社会保障費の増大という社会問題に大きな関心が生まれました。解決方法を調べていくなかで、平均寿命と健康でいられる年齢に開きが出ていて、普段からの予防にもっと気を使うべきだということが分かりました。予防は睡眠、運動、栄養、定期検診の四つが大事だとされているのですが、そのなかで栄養だけは今の状態が適切かの判断が難しい。そこで栄養を簡単にとれる手段を提供できれば、社会保障費の問題解決にもつながるのではと思ったのです。DeNAでも事業の立ち上げはできたと思いますが、当時はIT企業の色が強く、さまざまな制約も出てくるかもしれない、そう考えたのが会社を設立したきっかけです。
その後は、本格的に麺の試作に取りかかりました。原材料をスーパーや業務店から買ってきて、作っては食べての繰り返し。誰も試したことのない材料で麺を作るのはとにかく大変でした。最初は単純に栄養のあるものをと、ミネラルがある煮干しとポリフェノールを含むココアを混ぜ合わせたりもしましたが、当然ながらまずい。相性も考えて原材料を探し、栄養士や栄養学の学者、調味料メーカーの開発者、パスタ料理店のシェフなどにも相談しながら100以上の試作品を作りました。ようやく完成した麺をアマゾンで販売してみたところ、4日間で3000食が売れ、自分の見立ては間違っていないと確認しました。
購買者は共働きや1人暮らしで忙しい30~40代が中心でしたが、最近は高齢者の利用も増えました。昨年3月からベースブレッドの取り扱いも始まり、昨年末時点で累計134万食を販売しています。
今後は購買者の意見を反映しながら、原材料の配合や製法に改良を重ねていきます。また、米国でも展開を始めたので、そちらの販売強化も図っていきます。
企業概要
事業内容:完全栄養食の開発・製造・販売
本社所在地:東京都目黒区
設立:2016年4月5日
資本金:2億9849万円
従業員数:20人
■人物略歴
はしもと・しゅん
1988年大阪府生まれ。甲陽学院高校、東京大学教養学部を経て、DeNAに入社。駐車場シェアリングや自動運転などに関する新規事業を担当。2016年にベースフードを設立。31歳。