教養・歴史書評

忙しさにかまけていても「よそ者」に映る危機=楊逸

    ×月×日

     新年はカルロス・ゴーン被告の逃亡劇で明けた。なんだかハリウッド映画を見るような心地に浸っていると、今度は強い感染力を持つという新型肺炎が旧正月中の中国を恐慌に陥れる。

    「大災害が生じる以前、人はたいてい忙しさにかまけて災いが近づいているのに気がつかない」。『どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学』(パオロ・コニェッティほか作 関口英子、橋本勝雄、アンドレア・ラオス編 国書刊行会、2400円)に収録された短編小説「恋するトリエステ」の冒頭の一文だ。

    「軍服を着て出征していった息子や夫、婚約者がすべての家庭にいたわけではない。たとえ身内にそういう人がいたとしても、なにができただろう。じっと我慢し、うまくいくことを願いながら、なにか別のことを考えて毎日の生活を埋めるしかなかった」。こう書かれる1937年春のトリエステ。ユダヤ人青年アルベルトが姉夫婦のもとに身を寄せたところから物語が始まった。

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