週刊エコノミスト Onlineワイドインタビュー問答有用

理想の画材を求めて=アラン・ウエスト 日本画家/782

    「日本画の画材は化学的にさまざまな工夫ができ、銀ぱくをいぶしたり酸化させたりして描くこともあります」 撮影=蘆田 剛
    「日本画の画材は化学的にさまざまな工夫ができ、銀ぱくをいぶしたり酸化させたりして描くこともあります」 撮影=蘆田 剛

     草木の美しさを描くにはどうすればいいのか──。理想の画材や技法を追い求めた若い画家が、たどり着いたのは日本だった。それから40年。新たに吹き込んだ風は、日本画の世界に刺激を与え続けている。

    (聞き手=大宮知信・ジャーナリスト)

    アラン 海外のガイドブックに載るようになって、日本の観光客だけでなく外国人も増えました。今年は東京五輪がありますから、見に来るお客さんが増えるでしょうね。ここで販売している掛け軸や版画などには値段を付けていますが、売るというよりも一つの作品の例として展示しています。買わなきゃいけないというプレッシャーを感じると面白くないですよね。ここは入場料のない美術館と思ってもらえればいいんです。

    アラン 個人からも企業からもさまざまな依頼があります。個人のお客さんなら新しい家に入居するまでにとか、結婚する娘にプレゼントしたいので結婚式までにとか。「好きな時でいいよ」という注文もありますが、ちゃんと締め切りに間に合うように描き上げます。レストランのオープンの時に、壁が裸のままではおかしいですよね。

    アラン 注文制作は、依頼主の好みや飾る場所だけでなく、なぜ注文しようとするのか、作品に何を求めるのか、すべて理解した上で制作します。100%その人の気持ちに合うのはどんな作品なのか、そういうことを思い浮かべながら描くのが面白いんですよ。展覧会に向けて作品をいっぱい描いても、そうした面白さはありません。注文制作は依頼主とのいい交流、楽しい冒険でもあり、共同制作的なところがあります。

    アラン 人を通して注文が入ると、伝言ゲームのようになってしまい、依頼主の要望をどう解釈すればいいか分からなくなります。直接注文なら身振り手振りを交えたコミュニケーションが取れ、大柄な絵が好きなのか細かなものを望んでいるのか、さまざまなことが分かってくる。それがとても大事なところなんです。間に人が入らないので、注文制作でも価格は高くはありませんし。

    アラン これがにかわ、これが和紙、これが顔料の元の原料、と見せながら描いています。これには二つの意味があって、一つは正真正銘、自分が描いているということを見せるため。こんな絵を描くのは米国人ではあり得ないから、日本人に描かせているんでしょうと、何度か言われたことがあります。もう一つは、注文した人がいつでも見に来られる安心感。依頼された作品はこの通りちゃんと描いてますよ、と。

    アラン 品質保証、直しも可です。依頼するお客さんも不安がありますから、それを軽減するのも大事な仕事。もちろん自分も相手を喜ばせたいし、嫌だったら無理に購入させたくありません。これだという絵が完成するまで一緒に頑張りましょう、という気持ちなんです。

    アラン 高校生のころ、僕の作品を見た人から「昔から日本で使われた技法みたいだね」と言われたことが、その後の人生にものすごく大きな影響を与えました。自分にとって好きなモチーフは植物。草や木を表現するには線が大事なんです。でも、油絵の具のギトギトした質感のために、きれいな線が引けない。絵の具を作るために大理石の粉末にウサギにかわを混ぜたり、油と顔料を混ぜたりと、いろんなことをやっていたんです。

    アラン そう。でも、当時は日本画というものを知らなかったし、インターネットもなかったので、理想的な絵の具を手に入れるために試行錯誤を重ねていました。その技法は自分の発明だと思っていたんですが、「日本で使われた技法みたい」と言われ、がっかりしたと同時にほっとしたんです。ただ、時間がたつにつれて、今度はこの技法で描いた絵が長持ちするのかどうかが気になり始めました。

    アラン はい。僕は小さなころから何よりも絵を描くのが好きで、絵描きとしてキャリアを歩もうと決意したのは8歳の時。でも、自分の絵が売れた後、作品に亀裂が入ったりして、一斉にクレームを付けられたらどうしようもない。米カーネギーメロン大学芸術学部に入学した後、やっぱり日本に行くしかないと1982年、19歳の時に作品が売れたお金で来日しました。日本には画材に導かれて来たようなものです。

    アラン 日本画で使う岩絵の具は、天然の石ですから色落ちしないんです。また、鹿にかわは透明度が高く、にごりません。日本画の絵の具に出会って、一段と自由を手に入れた気分になり、とてもうれしかったですね。2年間の滞在で日本語も修得し、いったん米国に戻った後、つくば万博でアメリカ館の通訳をするチャンスがあり、85年に再来日しました。この時も1年間滞在し、画材をたくさん買い込みましたよ。

    アラン アハハハ。「聴講生としてでも勉強…

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