歴史資料としての偽文書 同時期刊行の2冊を読む=今谷明
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偽書・偽文書に関する歴史書が、偶然にも同じ日に発行された。原田実著『偽書が揺るがせた日本史』(山川出版社、1800円)と馬部(ばべ)隆弘著『椿井文書(つばいもんじょ) 日本最大級の偽文書』(中公新書、900円)である。今回はこの2冊を取り上げる。
わが国中世で偽文書が横行したのは、当時の訴訟が徹底した当事者主義だったことに関係がある。当事者が出した文書を裁判所が判断しないから本物だろうとみなされ、だから偽の文書が多かった。そして被告の出した文書が偽物であることの証明を原告が行う必要があったというから大変である。
その上、裁判を司る武家に文書を読めぬ者が多かった。これらの事情は同じ封建社会であった欧州も同様で、教会や聖職者の作成した偽文書の多くが本物としてまかり通った。ローマ教会がでっち上げた「コンスタンティヌスの寄進状」などその典型である。
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週刊エコノミスト
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