評伝の形式取りつつ室町期の特異な状況活写=今谷明
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戦後の論壇では天皇に関する問題は甚だ微妙であり、学界でも天皇の事跡を論ずることはタブー視されてきた。嵯峨天皇(8~9世紀)以降、幕末の孝明天皇まで、教科書で天皇の名が出るのは後醍醐天皇だけだ。
秦野裕介著『乱世の天皇 観応の擾乱から応仁の乱まで』(東京堂出版、2500円)は、前述のような昭和時代の論壇・学界のあり方からすると全く隔世の感に堪えない著作であり、またある面からすると、歴史上、天皇の位置付けが一変したことを如実にあらわすと言えよう。
本書は、鎌倉中期の両統迭立(りょうとうてつりつ)(分裂した家系から交互に即位させる状態)から中世の皇統を説き起こす。将軍足利義満・義持父子2代の室町幕府全盛期に、天皇の権威がどん底に低下した半面、義持の弟・義教の代から天皇の権威が反転して、永享の乱(1438年)や嘉吉(かきつ)の乱(1441年)に天皇から「治罰(ちばつ)の綸旨(りんじ)」が発給された。「治罰の綸旨」とは、幕府敵対勢力が「朝敵」に…
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週刊エコノミスト
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