電子出版のシェアが2割強に=永江朗
全国出版協会・出版科学研究所は7月27日、2020年上半期の出版市場を発表した。出版市場(推定販売金額)は前年同期比2・6%増の7945億円。出版不況、斜陽産業と言われているが、コロナ禍のなかプラス成長である。
もっとも、内訳を見ると喜べるようなものではない。前年同期比プラスとなったのは、紙と電子を合算した金額。紙の出版物(書籍+雑誌)だけだと、推定販売金額は前年同期比2・9%減の6183億円なのだ。
紙の雑誌は2・9%のマイナスだが、そのうち週刊誌が8・5%のマイナスだったのに対して、コミックス(統計では雑誌に分類される)が30%増と大幅に伸びたため、縮小幅は2・9%におさまった。コロナ特需がなければ、紙の出版物の市場はもっと縮小していただろう。
紙の本の市場縮小を補ったのが、電子出版である。電子コミック(33・4%増)、電子書籍(15・1%増)、電子雑誌(17・8%減)を合わせて28・4%増の1762億円となった。電子雑誌が大幅マイナスとなったのは定額読み放題サービスのユーザーが減っているから。いわゆる「レ点ビジネス」(契約時にサービスを利用するよう客を誘導する方法)を携帯電話通信業者がやめた影響が大きいと思われる。
市場占有率で見ると、今年上半期の電子出版は22・2%である。これを「まだ2割強しかない」と考えるか、「もう2割強にまで伸びた」と捉えるか。以前、ある大手出版社幹部が、「電子が3割を超えると収益構造に重大な変化が起きる」と筆者に語ったのを思い出す。紙と電子では稼ぎ方がまったく違うからだ。紙の本は重版すると紙代・印刷代はじめコストがかかる。また、ヒットした本はブームが過ぎると大量の返品となって出版社を苦しめる(ミリオンセラー倒産と呼ばれるゆえんである)。一方、電子は、限界費用ゼロとまではいわないが、重版に伴うコストや返品リスクはない。
電子出版の市場はこれからも伸び続けるだろう。電子に活路を見いだす出版社もあるだろう。しかし電子が売れても、書店や取次に利益の配分はない。出版社と書店・取次の利害は一致しないのである。
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