週刊エコノミスト Online闘論席

片山杜秀の闘論席

撮影 大山典男
撮影 大山典男

 1879(明治12)年、日本で暴動が多発した。コレラの大流行のせいである。死者は10万人以上に及んだ。しかも当時は病気の原因が分からなかった。ドイツの医学者、コッホが、インドでコレラ菌を発見したのは83(明治16)年のこと。その後も予防法や治療法がすぐ確立するわけではない。

 明治政府はどんな対策を取ったか。病人から感染することは間違いない。ならば隔離すればよい。へき地に離病棟を建てた。避病院と呼ばれた。患者は見つかり次第、搬送される。そこで死んだら、遺体は荼毘(だび)に付されてからでないと遺族に返されない。また、感染は食べ物を介しても起こると考えられた。だから流行地域からの農作物や魚介類の出荷は禁じられた。

 当時、取り得る合理的対策であったに違いない。だが、しばしば民衆の怒りを買った。避病院には面会にも行けず、訃報を告げられれば遺骨だけが戻され、葬式も出せない。遺族の精神的苦痛は大きかった。避病院では患者の生き胆(ぎも)(心臓)を取り、それを御用商人が米国に輸出して大もうけしているというデマが信じられもした。が、それ以上に深刻だったのは経済問題である。農作物や魚介類を出荷できなければ、農漁村はたちま…

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