インタビュー:これからの地銀に必要なのは、「エクイティ、デジタル、コンサル」の三つ=五味広文・元金融庁長官
りそな銀行や足利銀行の再生に尽力し、現在は福島銀行の社外取締役やSBIホールディングスの顧問を務める五味広文・元金融庁長官に、地銀経営のあるべき姿を聞いた。
(聞き手=稲留正英/大堀達也/中園敦二・編集部)
―― 地銀の2021年3月期決算が出揃った。
■伝統的な預貸業務で収益を上げるというモデルが変わっていないので、この決算を見ても先行き伸びていく方向は見えない。むしろじり貧が続いている、発展性がみられるようなものではない。
一部では一時的にコロナ関連で融資が膨らんでいるので、財務の悪化が抑えられているようだが、今後の推移をみると厄介な事態と考える。結論は地銀の全体として構造不況的な低迷状況は相変わらず続いている。
―― 地銀は今後、どうなる?
■新型コロナウイルス騒ぎがひと段落したら、また昔に戻るのか。地域の特に飲食、娯楽、旅行など簡単に起き上がりこぶしのように戻れるのかというと、戻れない可能性が極めて強い。
融資を膨らます今の状況だが、その融資によって構造的に地域経済を変革していく、サスティナブル(持続可能)な経済になるよう変革していく、そういう内容の融資であるなら将来への見通しは出てくるが、現在行われているのは、そうではない。単に資金繰りを出すだけで、延命のためになっている。これでは先々非常に不安である。地銀の財務の面から見れば不良債権化していく可能性が極めて高い融資が急速に膨らんでいる。これに対して地域金融機関はどんな手を打っているのか、ここがポイントだ。
膨らんだ融資が不良債権化する可能性が通常の融資より高いので、これについてどういう手を打つのか、単に引き当てをすればいい、増資をすればいい、というはずがない。
返って来ないお金を貸し続けるのではなく、貸して稼いだ時間の中で、債務者にどういう体質、構造改善を環境変化に応じてさせられるのか、そのためには融資以外にどんな知恵を授けられるか、そこが問われる。
デットからエクイティヘ
―― 抜本的な対策はなかなか無い。
■簡単に答えが出る話ではないが、その課題はコロナ前から突き付けられていた。コロナで急速に問題が露呈した。金融庁も何年も前から、このままでは将来はない、今日明日潰れることではないが、頭取が「私の在任中は大丈夫だ」というつもりでやっているのでは本当に将来はないし、地域経済の為にもならない、住民の資産形成のためにもならない。どういうやり方で地域の経済を生み出すのか、そのために銀行の機能をどう活かすのか、考えてくださいよと、言ってきた。
簡単に答えは出ないが、実は複雑な話ではない。簡単にいうと、地域経済は、地銀が大活躍できていた高度成長期、そんな時代と環境がガラッと変化した。人口が減る、企業数が減っていく、高齢化が進む、しかも高齢者は割とお金を持っている。その人たちの金融に期待する機能は変化していく。昔なら住宅ローンを借りることで、融資は住宅ローンみたいな形で消費者に、どんどん伸びていった。今は需要が昔と違ってそんなにない。利下げ競争をしてもうからないのに、住宅ローンでまだ勝負している地銀がいっぱいいるが、環境が変化して、そんなところに地域の経済に付加価値を生み出す金融機能は期待されていない。別の金融機能を期待して、個人でいえば資産形成とか、消費者ローンではない、資産形成するニーズがある。
伝統的な融資では将来はない
企業数が減っているので企業に対する伝統的な融資をいくらやっても、銀行の収益が伸びるわけではないし、そもそも融資を受ける地域の企業自体が発展性、成長性を失っているので、環境は変化している。昔の融資を頑張っても、将来は見えてこない。人口は減っている。新しい金融需要がボリュームで出てくる見通しはない。
その中で何をするかといえば、変化した環境の中で地域が求める金融は何なのかを、見極めてそこに経営のカジを切る。地銀の中ではこのような取り組みが一般的に、全体として遅れている。中には多少先進的な試みをしているところもあるが、地銀は総括する必要がある。金融機能を要求している企業群は融資量を求めているのではなく、将来、サスティナブルに企業が生き残り、発展していくための企業経営改革をどうしたらできるか、に関心がある。それが構造改革のポイントだ。
例えば、業態を転換するとか、異業態とアライアンスを組むとか。構造改革の時に求められる金融機能は、必ずしもデット(融資、借り入れによる資金調達)ではない。ハイリスクのものを、デットで解決しようとしても上手く行かない。結局、エクイティ(株式による資金調達)の問題になる。
エクイティの部分で求められる地域経済のニーズに銀行はどう応えていくのか。もちろんエクイティにうまく乗ることによって、投資対象が成長してくれれば、それは、デットにつながっていく。
デジタルは不可欠
―― 地域のニーズもある。
■もう一つは、地域の住民の求めている金融機能は、高齢化、人口減少の中で、生活基盤を整えるための融資ではない。将来必要になるかもしれない支出に備えて、資産をどう膨らませるか、資産運用へのニーズは非常に大きくなっている。「貯蓄から投資へ」というお題目ではなく、現実の資金ニーズ、金融ニーズが貯蓄的な色彩から、投資的な色彩、資産を形成していく方に移っている。
これに対して、地銀は相変わらず伝統的な融資業務で答えを出そうとしているのではないか。
やっていくうえで絶対欠かせないのがデジタル化だ。企業融資にしても、融資のリスク管理にしても、個人資産の形成のための様々な商品の取り扱いにしても、伝統的な融資業務においてももちろん、どうAIを活用して、効率的なかつ効果的な、融資、融資管理が出来るかが問題。デジタル化をいち早く金融は取り入れられるかが、もう一つのポイントになる。
うまく取り入れられないと、消費者ニーズにも企業ニーズにも的確には答えられない。エクイティ性の資金を取り扱うのであれば、デジタルは絶対不可欠で、預貯金の管理だの、融資の管理をやっている、大手のベンダーが提供する伝統的な重たいシステムをそのまま使うのでは無理。お金ばかり掛かって、効率は悪い。
コンサルで知恵を貸す
三つ目のポイントは、環境変化で銀行の経営体質を変えなくてはいけないし、銀行を相手にする企業の体質改善のための抜本的なアドバイスも必要で、コンサルティング機能が非常に大事になる。お金を貸すだけではなく、知恵を貸す、情報を融通する、これが重要になる。伝統的なビジネスマッチングを効率的にやるならば、銀行自身がコンサルティング機能を発揮し、地場企業に提案していくことが必要になる。構造改革であれ、販路改革であれ、お金を貸すから頑張ってというのではなく、貸したお金が生きるよう、どうコンサルティングができるか、地元企業が経済環境の変化に対応し、どう構造改革するか、その機能から入って行くことが重要だ。
エクイテイ、デジタル、コンサルティング、この三つを基軸に据えて、自分の銀行が置かれている今の環境でどこからどう手を付けたらいいのか。一人ではできないなら、どこかとアライアンスを組むのか、業務提携でも資本提携でも、やっていくのか。当然、相手は隣の地銀ではなくなる。業態が違うところ、例えば、デジタル系のIT企業、あるいはITを使って金融機能を果たしているようなプラットホーム、こういう人たちと、どう資本業務提携をするか。資産形成が重要になっていれば、当然、証券系の事業を中心にやっている会社とは、どう連携がとれるのか、きわめて重要になる。
異業態、異業種。保険もそうだ。もっとそういうところと有機的に連携をして品ぞろえ、金融技術を身に着け、将来の発展につなげていくか。
昔言われていたような「地銀の数が多いから減らす」という話ではない。必要な金融機能を果たすのに地銀という、伝統の信頼ある地元で情報量があり、かつ銀行という重装備の規制で守られているところが、正しく金融機能を果たしていくかという視点で、銀行の中だけで、競争が激しいから数を減らそうという話ではなく、数を減らしても、地銀は厳しい。
数の問題ではない
―― 金融庁としては、地銀は数が多すぎるという考えではなかった?
■数の問題ではないが、効率の悪い競争をしている部分は随分見られた。だとすれば余分な効率の悪い競争を覚悟しているなら、競争をしなくて済む環境を作ったら、いいのでは。だから、統合も一つの選択肢だ、ということだ。
その後見ていると、数が減ったから地銀の経営は健全になったかというと、なっていない。劇的に減ったが、上手く行っていない、じり貧は相変わらず続いている、よりひどくなっている。構造不況業種だから。商売の相手がどんどん小さくなり、減っていることで、それに合わせて金融規模を小さくすれば解決する話なら、合併していけばいいが、そうではない状況になっている。
求められる金融機能自体が、自動車で例えれば、「ガソリン車がいらない」、ということ。電気自動車の時代にガソリン車を得意とするメーカーが一緒になっても、構造不況対応にはならない。地銀はそういう状況であって、ニーズに対応できていないことをどう解決するか。数ではない。
―― 昨年から福島銀行の社外取締役に就任した。行政として監督する側から、中に入ってみて、地銀の経営をどう見るか。
■一般論になるが、将来、一人で生き残ろうという考えは変わってきている。銀行同士の業務提携は進んできているが、それに、とどまらず、異業態とどう連携をするか、デジタルにはどう協業関係を作っていくのか、自身の経営のデジタル化についても真剣に考えるようなことが感じられる。伝統的な融資業務にこだわって、知恵もなく相変わらず融資量を増やしたい、という考えの地銀は少数派になってきた。
福島銀行は先進的な取り組みを積極的にしている。資産運用面ではSBIと組むことで抜本改革をした。いっぺん赤字で全部出して、身ぎれいで身軽な状況になってきて、これからの選択肢が増えている、しかもSBIという資本を出すバックがいる。地銀全体でみれば異業種、異業態、デジタル系ベンチャー含めて、どう協業し、新しい環境で、適切にサービスを提供しサスティナブルが主軸を作るかという意識は、だいぶん高まってきていると思う。
日銀の支援策に飛び付く
合併したら補助金を出すという金融庁の提案も、関心を示している地銀は非常に少ない。むしろ日銀の、地銀が経営統合や経営の効率化に資する目標を出し、何年以内に実現すれば、当座預金に付利する、という提案にみんな飛びついている。是非やりたいと思っていた経営の効率化だが、時間をかけてやるだけの体力がないという状況だったから、日銀の制度はインパクトがすごい。利息が入るなら、血反吐をはいても頑張る、という風に。
全体として地銀の意識は、コロナが出た結果でどう動くか見えにくいところはあるが、私が現役でやっていた当時のような、前時代的な、銀行が偉かった時代の遺産にすがっていた時代とは、発想も変わってきた。問題は先を読み取る目利きだ。融資の目利きというより経営のサステナビリティを維持するため、どう冒険をしなくてはいけないか、この目利き。これができる経営者がいる地銀は強いし、徐々に、目覚ましい成果を上げると思う。
それは独力ではなく、必ず毛色の違う人達の技術や資金を入れることで、やっていくことになるだろう。
SBIとの協調はその一つの表れだ。全部シナリオ通りに運ぶかはこれから見ていかないとわからないが、SBIと組んだ小さな地銀はみんな生き生きしている、SBIは証券グループの中でも最速のスピードを持つ企業グループだから。元々銀行と証券は足の速さが全然違うが、SBIはさらにオリンピック級の速さだ。だから、伝統的な高度経済成長期時代の銀行業務でやってきた第二地銀から見たら、目を見張る、新鮮だ。これができると、「あそこに商売のタネがある」と見える。うまく地銀と証券グループの機能が融合すると大変、面白いことが起こる。福島銀行では目の当たりにできた。
コロナ融資の管理を念入りに
―― 福島銀行の2021年3月期決算は赤字だったがこれは、攻めの経営の結果か。
■今回の赤字は、今まで持っていた含み損を抱えている資産、これを全部表面化させたのが昨年だった。SBIと資本業務提携するについて、SBIと相談をした結果、重たい荷物を背負ったままでは新しいビジネスモデルが作りにくいから、いっぺんきれいにしましょうと。もちろん資本はドンと入れますからと。その結果、含み損が、昨年の上半期できれいに表面化した。下半期の業績には問題がないが、上半期の大きな損を出した部分を取り戻すまでにはいかない、これが前期の決算に出た。しかし、ポイントは現在進行中の今上半期、あるいは通年の見通しはどうなるか、ここで荷物が軽くなったので随分行動の自由ができることが見える決算、業績が上げられるかどうか、だ。
福島銀行は、今のコロナ関連の融資をした融資管理は、すごく念入りにやっている。そこになにか兆しが見えてきたときは、安易に資金繰りでつなぐのはなく、融資先の企業に付加価値の出る改革、情報提供をする。新しい取引先を探すとか、融資が不良債権化しないような、債務者側の体質の改善のために、に何を、いつまでに何をすべきか、ということを念入りにやっている。こういう姿勢でやっていればコロナが次の悲劇を持ってくるようなことにならないですむだろう。
―― 融資管理のこと、提携先を銀行員が探している動き?
■債務者の取引先を探すとか、そこに非常に力が入っている。債務者の本業をより大きくしていくために、より大きくした方がいいのであれば、そのために手助けを銀行がどうできるか、単にお金を貸すだけではなく、情報を入れていく姿勢。銀行員が深く噛んで、情報を共有し相談を受けてやっていくことがおこなわれている。地元企業に対する貸付に関しては念入りにやっている。コロナで難しい状況だが、貸付先の訪問を非常に神経を使ってやっていて、本部がそこの部分に目配りして、管理している。どれくらいの頻度で、どういう付き合いをしたのか、内容は何だったのか、念入りにフォローしている。取締役会でも月々の財務分析は報告されるが、不良債権、引き当て状況を説明していく中で、コロナ関連で発生したものか、そうではないものか、念入りに分析管理して、取締役会に報告している(編集部注:五味氏は社外取締役を6月22日の総会で退任予定)。
時間かけても、持続可能な収益構造を
―― こういうことこそがコンサルといえる?
■大事な要素だ。債務者自身の業態を大きく変えないと、先がないという話の時に、どういうことが出来るかも大事だが、もう一つは環境が変化していく中で、債務者に任せっきりにしても、債務者も「困った、困った、情報もないし」というのを助けていく。
―― 銀行の持つ情報ネットワークで債務者の知らない相手を見つけることが重要?
■大事だ。人材で、あるエキスパティーを持った人を銀行が紹介してあげることで、債務者が自分だけでは出来ないところを手伝ってもらう、そういう仲立ちも出てくる。債務者の資産運用の助言もだ。SBIが得意であれば、人材なりノウハウを銀行が仲立ちして紹介していくやり方だ。取引先に限らず。M&A(企業の買収・合併)、事業承継のケースなど相手を見つける、相手を探している先にフィットするところがあるときにはつないで、双方が発展するのなら紹介していく。知恵を出し情報を共有し、専門家を紹介し、それに伴って融資が付いた方がいいなら本業だから融資する。
これを一生懸命やったからと言って、今日明日で、PL、BSが見違えるようになる話とは違う。特に、銀行は間接的にしか効果は受けない。ただ、環境の変化でサスティナブルな収益構造を構築することが大事だ。時間はかかっても地道にやっていかなくては、いけない。時間のかかるプロセスをやっていくには資金量と情報量が必要。福島銀行はSBIと組んだことで資金と情報がばっちり持てている。特にSBIのスピードに速さには驚かされる。
金融の業態より、サービスの中身が重要
――SBI、東海東京フィナンシャルホールディングス、野村ホールディングの間で、地銀獲得競争も激化しているようにみえる。
■異なる業態、特に証券の業態と銀行の業態の両方揃っていないと、企業の発展なり、資産形成の方面から見てもバランスの良い商品、サービスの提供がしにくい。ただ、金融ビックバンになっても、銀行でも証券が売れるという話で、伝統的な銀行業と証券業に相変わらず縛られた発想で、細々とやってきた。
それがSBIによって違う発想になった。銀行だからどうだと言うのではなく、消費者金融からお金の貸し借り、投資、出資、債券運用から全部のものを総合的にできるようにして、そのうちユーザーにとって一番必要な機能をそのグループとして提供する。ユーザーにとって大事なのは誰がサービスの提供者であるかではなく、どういうサービスを提供してくれるか、ということだ。かつデジタルに対応する。この総合力のある金融機能提供者を作ろうとしているのがSBIだ。
特にSBIが強いのは、超富裕層がメーンではなく、むしろ、富裕層ではない人たちの膨大な口座がデジタルであることだ。地域金融機能は非常に貴重だが、SBI自身は提供できない。一方で、地域金融機関は、地域にとって真に必要な機能を、自力で提供できるかと言えば、それも、できない。そこで、SBIは、いろんなデジタルのITのエキスパティーがあり、資産の運用、調達のところで、銀行が自由に活動できないところを、人材とノウハウを持っているので、一緒にやりたい人はやりましょう、という話だ。
(終わり)