現場への権限委譲に潜む「ワナ」=岩尾俊兵
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現場への権限委譲に潜む「ワナ」
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企業や組織の経営においては、しばしば現場への権限委譲や分権化の必要性が叫ばれる。しかし、両者の間で「会社にとって何が良いことなのか」について合意されていなければ、いざ現場や部下に権限を委譲しても、いずれ本社や上司は権限を取り返すべく奔走する羽目になる。筆者は、国内自動車企業の海外生産拠点の実態調査から、この結論に至った。
権限委譲の例としては、海外生産拠点の改善活動が参考になる。改善活動とは、日々の業務への改良を従業員一丸となって実施する、組織変革活動を指す。企業は、改善活動を分権的(現場や部門ごとに権限をもつ構造)、またはボトムアップ的(現場で方針を決め、結果を本社に伝える)に行うことを目標とすることが多い。
言語の分断
海外生産拠点の場合、ボトムアップ型の改善活動が定着するまでに、本社の技術者が主導する段階、つまりトップダウン型の改善活動からボトムアップ型の改善活動へと移行する期間が必ず存在する。そのため、組織一般において権限委譲を実現するための前提条件を探る格好の例となる。
筆者は出発点として、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、東京大学などが共同で行った「国際自動車調査プログラム(IMVP)」における、実在する日本の自動車メーカー(X社)のデータを分析し、点数のデータに算出し直した。
図は、X社の国内生産拠点の平均点、海外生産拠点の平均点、そして海外生産拠点のうち特異な点数を記録しているY拠点を比較したものだ。平均的には、国内生産拠点のほうが、海外生産拠点よりも成績が良いことが分かる。一方、Y拠点の設立時期は、他の海外生産拠点ともほとんど差異がないが、生産能力の指標は一部で国内生産拠点をも上回っている。
表は各項目の点数の内訳に、従業員1人当たりの改善提案数を加えたものだ。これを見ると、Y拠点における従業員1人当たり改善提案数が、他の海外生産拠点どころか国内生産拠点よりも突出して多い。つまり、Y拠点ではボトムアップ型の改善活動が非常に活発化していたのである。こうした活発な改善活動の結果として、高成績の生産能…
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週刊エコノミスト
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