自明でない公共職業訓練の効果=酒井正
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自明でない公共職業訓練の効果=酒井正
就労支援の要はスキルの棚卸し
新型コロナウイルスが、拡大し始めた当初から雇用対策の柱として発動
されてきた雇用調整助成金の特例措置(「新型コロナ特例」)が延長され続けている。この春の段階では4月末までとされ、その後は段階的に縮小することが表明されていたが、3度目・4度目の緊急事態宣言が発令され、コロナの終息が見込めない中で、12月末まで延長される見通しだ。
この特例措置の累計支給額は、1年4カ月足らずで既に4兆円を超えている。2008年のリーマン・ショックの際の雇調金の支給額が、3年間で1兆円に届かなかったことと比較すると、今回の発動がいかに大規模だったかがわかる。毎月の利用実績も減っていない。こうなると、財源枯渇の問題もさることながら、雇調金の副作用が懸念され始めることになる。本来であれば市場から退出してしかるべき企業を、雇調金が延命させることで、産業の新陳代謝を遅らせているとの批判である。
そこで雇調金に代わって、大きな期待を寄せられているのが公共職業訓練である。背景には、飲食・宿泊業や娯楽業のように大きなショックを受けた業種がある一方で、医療・福祉系のような労働需要が旺盛な業種も存在することがある。職業訓練を行うことで、労働移動によって、この業種間の労働需給のミスマッチを解消しようというわけだ。
求職者意向も重要要素
だが、この「職業訓練によって業種や職種間のミスマッチが解消される」という主張は、それほど自明なことなのだろうか。この主張は、(1)労働移動が阻害されているのは職業スキルが足りないためであり、(2)その職業スキルは企業の外部で身に付けることが可能である、ということを前提にしている。果たして、本当にそのような職業は多いのだろうか。
失業者向けの公共職業訓練には、職業能力開発センターなどにおいて実施される「施設内訓練」と、民間の教育機関に委託して実施される「委託訓練」とがある。施設内訓練には、電気設備管理や溶接・塗装・配管整備、調理といったものづくり系のコースが多い。また、委託訓練には、プログラミング言語や業務ソフトなどのス…
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週刊エコノミスト
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