ブラジル 深刻なアマゾンの森林破壊 脱“中国向け農業”に支援必要=杉山洋
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ブラジル 深刻なアマゾンの森林破壊 脱“中国向け農業”に支援必要=杉山洋
南米9カ国にまたがり、日本の約15倍の面積を有する世界最大の熱帯雨林「アマゾン」。そのアマゾンの森林が急速に失われ、世界的な問題になっている。
アマゾンの森林減少を調査する「マップバイオマス」によると、アマゾンの6割が存在するブラジルだけで、2019年には1万2000平方キロメートル超が減少したという。新潟県の面積に匹敵する森林が失われた計算になる。減少面積は12年以来、右肩上がりで拡大しており、その原因のほとんどが開発に伴う火災であるとされる。
アマゾンは地球上で最も多様とされる生態系を育むがゆえに、森林減少による希少な動植物の絶滅はよく知られている。だが問題はそれだけにとどまらない。
中でも、気候変動に対する影響は深刻な課題の一つである。アマゾンの開発が大量の二酸化炭素(CO2)を大気に放出するためだ。森を切り開くために行われる野焼きによる放出に加え、土壌が蓄えていた炭素も放出源となる。森林が切り開かれた後、土壌にある落ち葉やその他の有機物の分解が進むためである。
そして、切り開かれた土地は乾燥し、連鎖的に周囲の森林減少を引き起こすという負の循環が問題を大きくしている。森林減少に関連するCO2放出量は極めて大きく、ブラジル国内では該当する「土地、土地利用変化及び林業」セクターからのCO2放出量は全体の4割超(約10億トン)を占める。
このように、アマゾンの熱帯雨林減少問題は気候変動への影響から世界的な懸念になっており、特に、アマゾンがある主要国ブラジルの対応に世界が注目している。
主因は農地拡大
開発の主な目的は、農牧地の取得である。アマゾンの農地利用といえば、先住民族によって行われる伝統的な焼き畑農業がイメージされがちだが、実態は異なる。
古くから行われている焼き畑農業は、あくまでコミュニティー内の食料確保を目的とし、熱帯雨林の回復力の範囲で行われるため、大規模な森林破壊をもたらすことはない。一方、現在問題となっているのは、商業目的で大豆・牛肉などを生産する近代的な農地開発である。こうした農地開発は、生産物の市場取引を目的とするため、前者に比べて格段に規模が大きくなる。
森林減少の主因である農地拡大の背景には、ブラジルの農業大国としての成長がある。ブラジルは国内外の需要にけん引され、今や世界有数の農業国となっている。例えば、大豆や牛肉の生産量はそれぞれ世界1、2位を誇る。特に大豆は、巨大な消費国である中国の需要の伸びに伴い、ブラジルの主要な輸出産品となり、ここ10年で生産量は倍増した。ブラジル産大豆の7割が輸出に回るが、輸出先の8割超は中国向けである。
農地拡大がもたらすアマゾンの森林減少が顕著になるにつれ、農地開発を抑制し森林を守ろうとする動きが盛んになってきた。代表的な運動として、アマゾン熱帯雨林を転用した畑で生産された大豆を流通させないことを目的とした、「大豆モラトリアム」という取り組みが挙げられる。
大豆モラトリアムは自主的な取り決めとして実施され、参加企業が取り扱う大豆は、アマゾンから転用された畑以外のものに限定される。環境問題に対する意識の高い西欧諸国から始まり、過去に大きな成果を上げてきた。
加えて、これとは異なる形での農地開発抑制の動きもみられる。アマゾンの開発に関わる企業への資金を制限するというものだ。フランスの大手銀行であるBNPパリバをはじめ複数の銀行が、アマゾンの開発に関連する企業への融資を停止することを表明している。
背景に中国の需要
しかし、現…
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週刊エコノミスト
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