競争激化で収益増の「逆説」=松島法明
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価格敏感な消費者の割合がカギ
さまざまな製品やサービスを提供する企業にとって、価格の設定は常に悩ましい問題である。競合する製品やサービスの価格もにらみながらの判断を迫られるが、実は高いブランド価値を持つ製品やサービスを提供する企業にとっては、ブランド価値の低い企業が数多く参入したほうが自社にとって有利になる場合がある。この直観に反する可能性について、需要の「価格弾力性」を手掛かりに検討してみたい。
まず、消費者の需要に直面している独占企業を考えよう。通常、需要量は価格が上昇すると減少して、価格が下落すると増加する。一得一失の制約下で企業は最適な価格を設定するが、需要の価格弾力性は価格設定を考えるうえで有益だ。
価格と需要の関係を評価する際、「需要量の変化率÷価格の変化率」で定義する「需要の価格弾力性」を考える。この値が大きいほど価格の変化に対して需要が大きく変化しやすいことを意味し、企業が収入をより増やすには値下げするほうがよい傾向にある。
これは複数の企業が競争する場合も同様だが、独占と異なるのは、自社の価格設定に対する傾向が相手企業の価格付けに影響を与える点である。
ここでは、各企業の製品は一定程度差別化されているため、価格が多少異なっていても一定程度の需要が得られる設定とする。需要の価格弾力性が高い場合、各企業は価格引き下げの誘因が高いため、ライバル企業の値下げに対抗するために自社も値下げせざるを得ない。
それでは、どのような場合に需要の価格弾力性が高くなるのだろうか。その一つとして、製品に支払ってもよいと考える金額(支払い意思額)が高くなく、価格に対して敏感な消費者群が一定割合以上存在する場合が考えられる。
このような場合、企業は価格に敏感な消費者群の需要を確保しようと、値下げの誘因が強くなる。価格に敏感な消費者群が一定割合以上いると、無視するには惜しい需要量となり、競合する企業が相互に値下げの誘因を読み込むため、このような消費者群の存在は価格競争を激しくする(図)。
新興企業はむしろ歓迎?
これらのことを考慮して、需要と企業の収益性について、筆者はやや直観に反する理論結果を示した研究を2009年、青山学院大学の石橋郁雄准教授(現在は龍谷大学准教授)と、マーケティング分野の米学術誌『Marketing Science』で発表した。高い商標(ブランド)価値を持つ…
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週刊エコノミスト
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