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週刊エコノミスト Online 学者が斬る・視点争点

個人ごとに提示価格を変える効果=松島法明

全消費者に個別価格提示なら利潤も

 同じ商品やサービスでも、購入する人ごとに異なる価格を付ける「個別価格」に注目が集まっている。鉄道など公共交通で大人と子供とで異なる料金を課すといった「価格差別」は数多くの場面で用いられてきたが、そうした属性による価格差別の究極形として「個人ごとの価格差別」=「個別価格」があり、近年、さまざまな企業が競って個別価格を導入している。

 個別価格に近い事例として、配車アプリ大手の米ウーバー・テクノロジーズの価格付けがある。ウーバーの利用者がスマホで配車依頼を申し込む際に見積額を受け取るが、その金額は経路に応じて設定できるので、スマホ利用者のさまざまな属性を考慮して価格設定することも潜在的には可能になる。また、乗車する経路や時間帯も異なるので、見積額を比較して不公平感を感じる程度も低いことが予想され、個別価格を実行に移しやすい環境にあるとみられる。

 個別価格が実現できるのは、個人を特定できる技術が広く普及したからだ。例えば、ウェブサイトの閲覧実績の追跡が可能になり、それを利用して、企業は個別販促ができるようになった。

既存顧客の規模が重要

 個別価格が企業利潤に与える影響について考えてみよう。これは、市場が一企業に独占されているか、複数企業の競争があるかで分けて考える必要がある。

 最初に、独占企業による個別価格の効果を確認する。独占企業は、消費者が支払ってもよいと考える金額(支払意思額)が、生産にかかる費用を上回る限り、商品やサービスを供給する。

 個別価格を設定する場合でも、従来通り、個人ごとに価格を変えない値付け、つまり、「均一価格」も設定できる。これは、均一価格が個別価格の特殊例であることを意味し、個別価格により利潤は改善するか不変であることを意味する。

 次に、複数の企業による価格競争が存在する場合はどうだろう。独占の場合と異なり、個別価格を使えることによって利潤が増えるか否かは、需要環境や競争環境によって異なる。例えば、筆者も関わった豪モナシュ大学のチェ教授らによる次のような研究(2018年『Management Science』掲載)がある。

 複占企業(同一商品を供給する企業が2社の場合)のA社とB社が2年間、競争する市場で、個別価格が利用できるとする。

 1年目はA社もB社も顧客情報を持たず、ライバル同士、価格競争をして需要を取り合う。

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