週刊エコノミスト Online学者が斬る・視点争点

経営学の視点から見た阪急電鉄における老舗の美学とは=加藤敬太

    マルーン・カラーが特徴の阪急電鉄の車両 共同通信
    マルーン・カラーが特徴の阪急電鉄の車両 共同通信

    生活文化の創造が阪急の美学=加藤敬太

     私は幼少期を阪急沿線で過ごしたことがきっかけで「鉄道好き」となった。経営学者となった今、企業の組織文化や美学に関心を持つようになり、研究対象として阪急電鉄(大阪市)へのフィールド調査を11月から始めた。

     阪急は電鉄ビジネスモデルの祖といえる。電鉄の多角化経営というビジネスモデルは、関西に限らず全国の私鉄が大なり小なり阪急モデルに倣ってきた。創業者の小林一三のベンチャー精神と功績に改めて偉大さを感じる。

     阪急の創業は1907(明治40)年と、110年以上の歴史を有する電鉄界の老舗である。ただ、関西には阪急より古い鉄道会社は存在する。ここで、私が阪急を「電鉄界の老舗」という論拠は、多角化経営によって発展すると同時に「阪急文化圏」(原武史『「民都」大阪対「帝都」東京』講談社学術文庫)と称されるほどの都市を興し、大衆の文化を醸成してきた文化企業だからである。

     これまで私の老舗研究では、文化的側面を経営の大切な柱にしなければならないと主張してきた。

    電鉄界の老舗は多角化で発展

     私が今回注目したいのは、阪急の文化であり、その先にある阪急らしさを感じる組織美学である。ここでいう組織美学とは、「審美学」とされる哲学に基づいた新しい経営学研究である。表面的な美しさではなく、組織に関わる人々が感じ取る感性の学のことである。

     阪急といえば「マルーンカラー(小豆色)」に統一されたきれいな車両を思い浮かべる人が多いだろう。大阪梅田駅は神戸線、宝塚線、京都線の三つの本線が乗り入れ、9線10ホームある構造は、私鉄一のターミナル駅として有名だ。改札を出てエスカレーターを降り、日本初といわれる動く歩道の先に広がるコンコースは美しい。かつてのコンコースはかまぼこ型天井となっていて、シャンデリアがつり下げられていた。

     2012年に新しくなった阪急百貨店うめだ本店も、御堂筋に面した象徴的な建築物として存在感を放ってきた。1914年に宝塚新温泉で催された宝塚少女歌劇からスタートした宝塚歌劇、映画の配給を手掛けてきた東宝など、エンターテインメント事業もグループ経営の柱の一つにしている。まさに生活文化を創造し続けていることが阪急のコア・コンピタンス(中核である強み)だといってもよい。

    「創造的破壊」を具現

     創業者、小林一三の功績を企業家(アントレプレナー)概念から振り返ると極め…

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