データ確保目的の合併が増加=松島法明
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「個別価格の余剰収奪」と「低価格の競争」効果
データの有用性が叫ばれて久しいが、データが特に重要な役割を果たしているデジタルプラットフォーム事業者は、その収集と利活用に膨大な投資を続けている。データ収集の手段を拡大させる一つの方法として、データを利活用する既存の有力事業者を買収して自社のデータ資源と結合させる方法が考えられる。
実際、支配的地位にあるデジタルプラットフォーム事業者は長年にわたって、データの獲得を目的とした合併いわゆる「データ駆動型合併」を繰り返している。有名な事例は、フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)によるインスタグラムの買収があり、消費者の嗜好(しこう)について、より精度の高い情報が獲得できるようになり、有効な広告の発信が可能となったといわれる。
最近注目を集めた例は、米グーグルの持ち株会社アルファベットによる腕時計型端末(スマートウオッチ)を手掛ける米フィットビットの買収だ。この合併は、スマートウオッチに搭載されるアンドロイドOS(基本ソフト)をグーグルが開発しているため、このOSを利用して競合するスマートウオッチ製造会社へのマイナスの影響を与えることが懸念された。また、スマートウオッチ経由で獲得したフィットビット利用者の健康情報を活用したグーグルの広告市場への影響も危惧された。
いずれについてもグーグルが問題解消措置を提案しており、後者についてはスマートウオッチを経由して獲得したデータを広告市場に利活用しないと確約。また、健康関連情報は、グーグルグループ内の他のデータからの分離を維持するとしている。
市場横断型も
さて、データ利活用を目的とした「市場横断型合併」について、筆者も関与した『ランドジャーナルオブエコノミクス』で近く発表される豪モナシュ大学チェン准教授らの研究を踏まえて考えたい。
ここで、二つの直接競合しない市場(XとY)を考える。Xはスマートウオッチ市場、Yは医療保険などの健康関連市場とする。スマートウオッチの特性から、市場Xでスマートウオッチを購入・利用してもらうことで健康情報を獲得できる。もし、市場XとYの両方に参入していれば、市場Xで獲得した健康情報を用いて、市場Yで健康関連商品をそれぞれ顧客に見合った価格で提供できるとする。
両市場に参入している事業者(企業Aとする)による健康情報の連携によって、直接関連しないはず…
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週刊エコノミスト
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