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非現金決済の普及のカギは「排他条件付き取引」にあり=松島法明

非現金決済の普及のカギ

 キャッシュレス(非現金)決済は、クレジットカードや電子マネーなど数多くの手段が存在している。一般社団法人キャッシュレス推進協議会が2020年にまとめた「ポストコロナのリテール決済」によると、キャッシュレス決済手段は、日本では1人当たり8・5手段を保有している(17年)。

 この保有手段の数は諸外国よりも多いが、決済金額全体に占めるキャッシュレス決済の比率は21・4%と諸外国よりも低く、依然として現金決済の比重が高い。裏返せば、キャッシュレス決済の利用が拡大する余地は十分あるように映る。

 ペイペイによる利用者への大規模な還元キャンペーンに代表されるように、各決済事業者による利用促進事業の結果、QRコード決済をはじめとするスマートフォンやスマートウオッチなど携帯機器を用いた非接触型決済(以下、携帯型決済)が広く認知されるようになった。

 現時点で、決済に占めるキャッシュレス決済の割合は極めて低い状況にあるが、いくつかのQRコードによる決済事業者は地方自治体まで巻き込んで利用を進めており、成長する可能性はある。携帯型決済の可能性について考えてみたい。

排他条件付き取引の誘因

 携帯型決済は、個人が日常生活の中で、文字通り常備している携帯機器と連動できる点に特徴がある。携帯型決済の特性は、クレジットカードのような従来型の単なる「非現金決済」と異なり、決済事業者側から利用者の個人属性を把握したうえで販売促進して消費を促すことができる。

 理論上は、利用者の位置情報を活用した加盟店の広告や割引券配布は可能だ。携帯型決済が持つ潜在能力を十分に活用できるようになった場合、検索利用者の嗜好(しこう)や関心に合わせた検索連動型広告提示と似たことが携帯型決済で可能になる。

 広告や販促の発信機能を有効に活用するためには、オンラインで消費者と売り手が接点を持つ機会を提供するデジタルプラットフォーム事業者よる事業拡大が必要だ。同様に加盟店(売り手)を確保して利用可能な場面を増やしつつ、これをテコにした消費者の確保も必要になる。この加盟店数と消費者人数の相互作用は逆に、消費者を確保したことをテコにして加盟店の確保につなげることもできる。

 携帯型決済市場は、加盟店と消費者をつなぐ接点としての役割を持ち、提供できるサービスは非現金決済だけではなく、加盟店の広告発信や販促支援まで広げることができる。このため、例えばオンラインの検索と連動させた広告市場で収益を上げる、広告仲介型のデジタルプラットフォーム事業者との競合も意識する必要があるだろう。

 消費者の目を引き付けて取引を望む売り手に誘導する手段は、携帯型決済事業者とデジタルプラットフォーム事業者で異なっている。従来であれば異なる産業に属するものとして認識されていたが、オンライン媒体を用いて「消費者との接点を巡る競争」をしていると…

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