消費者庁が制度大改正 食品から「無添加」表示が激減する 消費者あざむく行為を一掃へ=木村祐作
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食品の容器包装には、「乳化剤」「甘味料」「着色料」などの文字が記載されている。これらは食品添加物で、食品の食感や風味、外観を改良するために用いられている。「保存料」「酸化防止剤」はカビの抑制や保存性を良くするために使用する添加物だ(表1)。
添加物の安全性については、内閣府の食品安全委員会や厚生労働省が慎重にチェックしており、「添加物を入れた食品も、添加物を使用しない食品と同じくらい安全」というのが国の見解だ。
食品添加物は、加工食品の品質と安全性を安定させ、広域流通を可能にしているともいえるが、消費者の間では「食品添加物は健康に悪い」というイメージが根強く、添加物を避ける傾向がある。
消費者庁は2019年度から「食品添加物表示制度」の改正を順次進めている。その狙いは、添加物に対する消費者の誤認をなるべくなくすことにある。
誤認とは、例えば、科学的な根拠が不十分ななかで、「無添加だから安全」と表示すると、いたずらに安全性を強調することになり、消費者をあざむくことになるからだ。
現行の食品添加物表示制度を逆手にとって、消費者をあざむくような表示が横行していることも、今回の制度改正の背景にある。
「人工」「合成」も削除
消費者庁の「食品添加物表示制度に関する検討会」は20年3月、添加物表示のルール改正の大枠をまとめている。
改正のポイント(表2)は、(1)「人工」「合成」という用語の削除、(2)「○○無添加・△△不使用」表示のルール化、(3)栄養強化の目的で使用した添加物の表示を原則すべての加工食品に義務化──の三つだ。
このうち、消費者庁が手始めに取り組んだのが、「人工甘味料」「合成保存料」などで見られる「人工」や「合成」という用語の削除だ。
消費者庁の「食品表示に関する消費者意向調査報告書」(17年度)によると、添加物を使用していない商品を選ぶ消費者の4人に1人が、「『合成』や『人工』の表示があると購入を避ける」と回答しており、一定数の消費者が「人工」「合成」の用語に強い抵抗感を持っているためだ。
添加物には天然由来もあれば、化学的に合成されたものもある。例えば、カレー粉に用いるウコンの色素は天然着色料の一つで、消費者は「天然」の方が「人工」「合成」よりも体に優しく、安全というイメージがあるが、実際には優劣はない。
そうした消費者の誤解もあり、消費者庁は20年7月に制度を改正し、「人工」「合成」の削除を決定。経過措置期間が切れる今年4月1日から、「人工」「合成」という用語の使用は全面禁止される。
次に消費者庁が取り組んだのが、「○○無添加・△△不使用」表示のルール化だ。これが今回の制度改正の主軸でもある。
これまで「無添加・不使用」表示は、ルールのない野放し状態だったが、3月1日、消費者庁の検討会は「無添加・不使用」の表示のガイドライン(案)をまとめ、消費者を誤認させる表示を禁止するとした。
ガイドライン(案)を見ると、市場から「無添加・不使用」表示の大半が一掃される可能性もあるほどのルールとなっている。ただし、全面禁止ではなく、例えば、新たな技術で食感を改善し、「乳化剤」などの不使用を実現できれば、ガイドラインの公表後も「無添加・不使用」表示を継続できる。そうした企業努力については表示を認める考えだ。
「無添加・不使用」表示について、早くから問題提起を行っていたのが某大手製パン企業だ。同社は、他社が「イーストフード・乳化剤不使用」と表示していることを批判しているが、その理由はイーストフードや乳化剤と同じような物質を使用しているからだ。消費者をあざむくことになると指摘している。一方、全国清涼飲料連合会は「不使用表示の一律禁止は、技術や新手法による原価低減を含めた企業の取り組みを阻害する」としており、厳しい措置に懸念を示す業界もある。
「無添加は安全」は不可
ガイドライン(案)では、消費者を誤認させる表示に該当し得る「無添加・不使用」表示を10類型に整理している(表3)。主なものは次のような例だ。
(1)「無添加」のみ表示の禁止。添加していないの…
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週刊エコノミスト
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