家電メーカー生き残りの道は“脱家電”にあり、コロナ時代の販売戦略とは=加藤木綿美
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食材まで売る家電メーカー
生活の変化を捉えた戦略
新型コロナウイルスの流行で調理家電の需要が伸びている。テレワークが普及したことで、これまで使用していたものよりワンランク上のコーヒーメーカーを購入したという声はよく聞くし、相次ぐ緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響から、ステイホームに伴い家で食事を取る回数が増えたという人も多い。この状況を利用するべく、調理家電メーカーは新たな販売戦略に打って出た。調理家電用の食材までも売り始めたのである。
調理家電のような耐久消費財を扱うメーカーの悩みは、一度購入されると次回の購入までのタイムラグが長いことである。自動車や住宅のように一度の購入金額が大きい商材であればよいものの、家電は一度の購入金額が比較的安価なのに対し、10年以上使用する消費者も少なくなく、LTV(顧客から生涯にわたって得られる利益)を上げにくいことが企業にとっては課題となる。
耐久時間が短く、早く壊れてくれれば買い替え需要を喚起することはできるが、すぐに壊れる印象がつくと、競合メーカーに乗り換えられてしまう危険性もある。
「二つの定石」の限界
このような中、大手家電メーカーがこれまで取ってきた定石の戦略は、だいたい二つに絞られる。
一つは、「家電の高付加価値化に伴う高価格化」だ。
共働き世帯の増加で家電による家事負担の軽減ニーズが高まるとともに、家電にかけられる金額が増えたこともあり、ドラム式洗濯機やロボット掃除機など、高付加価値製品の購買を通じて平均単価を上げることで利益獲得を狙っている。
5万円の高級ドライヤーや10万円の高級炊飯器など、通常価格よりもケタが一つ多い商品も近年多く見かけるようになった。新興家電メーカーはアイリスオーヤマやツインバード工業のように安さを売りにするのが主流だったが、バルミューダやバーミキュラなどの高付加価値路線を主軸にする新興家電メーカーも登場している。しかし、これもまた買い替え需要や新生活需要が中心になることや、次回購入までのタイムラグが長いという根本的な問題は解決していない。
もう一つは、「部品やパーツの高価格化」だ。
プリンターのインクやコピー機のトナーのように、製品の機能を達成するために必要不可欠ながら、消耗性のある部品やパーツの価格を上げ、それらの定期的な購買によって収益を上げる。家庭用プリンターは本体価格を利益度外視で安価にし、インクで収益を上げるモデルが長きにわたって続いてきた。
しかし、海外では互換インクの普及によるメーカー純正インクの売れ行き不調が問題になっている国もあり、また、消耗性のある部品やパーツを有しない家電ではこのビジネスモデルを採用することは難しい。
そのような中、耐久消費財を通じた非耐久消費財の販売が行われ始めている。その対象となっているのが、「ほったらかし調理家電」である。食材をカットして…
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週刊エコノミスト
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