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企業の命運決する「最高標準責任者」=糸久正人

複雑化する製品システム開発に対応

 製品システムが巨大化・複雑化の一途をたどるなか、「標準化」への対応が企業の命運を決するようになってきた。

 IoT(モノのインターネット化)により、クラウドを介して多くの製品がつながり、製品システムの構成要素が増大した。構成要素は一つ増えるだけで、調整コストは飛躍的に増大する。なぜなら、構成要素間の相互依存関係を考えた場合、他の構成要素すべてとの関係を考えなければならないからである。いわゆる「組み合わせ爆発」の問題である。

 製品システムの巨大化・複雑化に伴い、日本企業の強みである「すり合わせ」は限界に達しつつある。乗用車のように安全性や環境問題などの制約条件が厳しい製品の場合、機能と構造の関係は複雑に絡み合っている。

 例えば、燃費という機能を達成するためには、エンジン、ボディー、サスペンションなどの各設計者は、すり合わせをして最適設計をしなければならない。乗り心地や走行安定性といった機能を実現するためにも同様である。チームワークを得意とする日本企業にとって、こうしたすり合わせ能力は競争優位の源泉であった。しかし、近年すべてをすり合わせで対応することは難しくなっている。

 こうした事態に対応するには、「標準化」は一つの有効な手段である。先駆的な事例としてパソコンシステムでは、USBやHDMIといったインターフェース(入力部)標準をつくることで、映像を映し出すモニターの設計者と、演算機能を提供するパソコン本体の設計者は、お互いにすり合わせをすることなしに、各製品を独立に開発することができる。ソフトウエアの世界はこうした傾向が顕著である。スマホのOSであるiOSやアンドロイドといったAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の標準に従うことで、ゲーム、動画配信、カレンダーなど、さまざまなアプリ開発者は、ハードを動かす基本ソフトウエア(BSW)の構造にまで関知することなく、自由にアプリ開発にチャレンジすることができる。

60社にCSO設置

 標準化に対応するために、CSO(Chief Standard Officer、最高標準責任者)を設置する企業が増えてきた。デジタルトランスフォーメーション(DX)化の号令のもとに、自動車、家電、都市、工場、医療、金融などあらゆるモノがつながる世界へと移行しつつある。換言すれば多くの産業は組み合わせ爆発の問題に直面しており、標準化への対応は急務となっている。その結果、経済産業省の調べでは、約60社の日本企業でCSOが設置されるようになった。

 技術マネジメントの領域に限れば、CSOの役割には三つのレベルがある。レベル1は標準化を円滑に推進するための役割である。かつて標準化といえば、「VHS対ベータ」のビデオ規格に見られたように市場競争に勝ち残る競争を通じた標準化が主流であった。しかし、競争…

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