アフターサービスで持続的競争優位の構築を=藤原雅俊
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アフターサービスの戦略的意義=藤原雅俊
クボタが中国で優位築く源泉
販売後のサービスを意味する「アフターサービス」の重要性が叫ばれて久しい。製品単体で利益を積み重ねる「単品売り切りモデル」からの脱却という収益設計の文脈でその重要性は指摘されがちだが、アフターサービスにはそれ以外にも多くの効能が詰まっている。
ゆえに筆者は戦略策定時の重点項目とすべきだと考えている。だが現実には、アフターサービスを見事に生かす企業がある一方、出遅れて劣勢に立つ企業、挽回に挑む企業、まだその重要性に確信を得ていない企業など幅があるというのが実感だ。
筆者がアフターサービスの重要性を改めて強く主張したいのは、少なくとも三つの戦略的意義があるからである。
第一に、アフターサービス自体が有効な差別化の手段として競争優位につながる。一般に、製品やサービスといった財は本質サービスと補助的サービスとに分かれる。自動車でいえば輸送が本質サービスで、外観や乗り心地、保証やアフターサービスなどは補助的サービスに当たる。市場が誕生して成長し始める過程では本質サービスの差別化が競争力に大きく寄与するが、やがてそこでの差別化は難しくなり、補助的サービスの差別化が重要なカギとなる。
成熟市場が多いとされる今日、補助的サービスの優劣は競争戦略上の要となる。そこで有力な武器となるのがアフターサービスだ。例えば、耐久財の購入を検討している消費者や企業にとって、定期点検や修理対応などアフターサービスが充実しているかどうかは意思決定を大きく左右するポイントになる。
第二に、冒頭で記したように追加的な収益源になり得る。部品交換や修理による収益獲得は分かりやすい話だ。中には、基本的なサービスを無料で提供して高度な機能については料金を課金する「フリーミアムモデル」の考え方を援用し、アフターサービスを無料部分と有料部分とに切り分ける企業もある。無料の領域を設けることで、顧客をアフターサービスの世界にうまく誘い、広く囲い込みつつ、その先での収益化を狙うのだ。無料メンテナンスついでに部品を新調した経験を持つ読者も少なくないだろう。
そして第三に、将来に向けた重要なニーズ学習手段となる。例えば製品の点検時には、どの部分がどれほど摩耗しているかという情報や、顧客がその製品をどのような環境下でどのように使っているのかという情報を把握することができる。いずれの情報も次のニーズを学び取る上で大いに役立つ。不確実性をはらむため、評価されにくい面もあるが、ここまで戦略思考を伸ばせる企業は強い。
ダイキンの「一発完了」
筆者がアフターサービスの重要性を確信したのは約10年前、中国市場で競争力を持つ日本企業を調査する共同研究プロジェクトに参画した時のことだ。詳細は『日本型ビジネスモデルの中国展開』(有斐閣)に譲るが、農業機械大手クボタのコンバイン事…
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週刊エコノミスト
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