同僚に敬意を持たれない人が世界平均の2倍超だった日本=藤井秀道
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人材を資本と捉え価値を高める
2020年8月、米国証券取引委員会が上場企業に対して、従業員の健康状態や教育水準を含めた「人的資本」に関する情報開示を義務付けた。人的資本とは、人材を投資によってその価値を高めることができる「資本」だと捉える考え方だ。日本においても改訂コーポレートガバナンス・コードの中で、人材の多様性及び育成方針や自社の経営戦略と人的資本への投資の整合性などを通じて、人的資本管理に向けた取り組み及び、情報開示を促すための枠組みが整備されている。
20年9月に経済産業省が公開した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(人材版伊藤リポート)」においては、人的資本は経営の根幹に位置付けられるとともに、企業価値創造の中核に位置しているとし、戦略的な人材の育成・活用は持続的な企業価値向上を達成するための重要な取り組みであると指摘している。その上で、管理部門としての人事から経営戦略と連動した人材戦略への転換を求める内容となっている。
従来、日本企業の人事制度は終身雇用や年功序列が中心で、大きな失敗や減点がない限り昇進を行うことが可能だった。こうした制度の下では、従業員はいかに失敗せずに業務を遂行することができるか、もしくは失敗したとしても自らの責任を追及されない体制を整えるか、というネガティブな姿勢に陥ってしまいがちになる。
そして、この姿勢は失敗リスクが少ない前例踏襲を基本とした体制で業務を行うことにインセンティブ(動機付け)を持たせるとともに、前例と異なる方法を採用することへの障壁となり、現場から新しい取り組みを提案する動機を低減させる。仮に課題を解決するアイデアを持っていたとしても、上司との確執や同僚との関係悪化を恐れ、提案するのをためらってしまうことにもなる。こうした組織はイノベーションが起きにくく、生産性が低いことが過去の研究成果により明らかになっている。
「敬意の欠如」日本約3割
人的資本の適切な管理は、労働生産性に大きな影響を与えていることが知られている。では、労働生産性を高めるために人的資本管理の中で重要な要素は何か。米IT大手グーグルは12年、生産性の高いチームに共通する要素を明らかにするために、プロジェクトアリストテレスと呼ばれる取り組みを開始した。表はプロジェクトから導かれた効果的なチームを構築する上で重要な五つの要素を表している。グーグルのリポートでは、この五つの要素の中でも、特に「(1)心理的安全性」が圧倒的に重要な要素であると指摘している。
心理的安全性が高い状態とは、対人関係においてリスクある行動(無知、無能、邪魔と思われてしまうかもしれない言動)を行ったとしても、誰も自分を否定的に評価することがないことを指す。心理的安全性が確保されている組織では、他のメンバーからの評価を気にすることなく自分の意見を述べることが…
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週刊エコノミスト
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