国際・政治注目の特集

《ウクライナ戦争で知る歴史・経済・文学》SNSが暴露するロシアの内情、第二次大戦前夜の「独裁」の酷似=編集部

SNSが暴いたロシアの内幕 甦る第二次大戦前夜の「独裁」=稲留正英/加藤結花

 <ウクライナ戦争で知る 歴史・経済・文学>

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 2月24日のロシアのウクライナ侵攻から間もない28日。ロシア軍の敗北を予想したツイートが軍事評論家の間で話題になった。題名は、「なぜ、ロシアはこの戦争に敗北するのか?」。ツイートではその理由として、(1)ロシア軍に対する過大評価、(2)ウクライナ軍に対する過小評価、(3)ロシアの戦略と政治的なゴールへの誤解──の3点を挙げた。その後、ロシア軍は予想通り、ウクライナの首都キエフの近郊で敗北し、北部からの撤退を余儀なくされた。(特集「ウクライナ戦争で知る歴史・経済・文学」はこちら)

 ツイートの主は、ロシア人の軍事研究者カミル・ガレエフ(Kamil Galeev)氏。米シンクタンク、ウィルソン・センターの在モスクワ研究員だ。北京大学で経済学と経営学、英セントアンドリュース大学で歴史学を学び、ソ連崩壊後のロシア政治などを専門としている。ウィルソン・センターは1968年に米国議会によりスミソニアン学術会議の下に設立された名門シンクタンクだ。

プーチン氏も未知の戦い

 ガレエフ氏のツイートを要約すると以下のようになる。プーチン氏は、ショイグ国防相の前任のセルジュコフ国防相に、ロシア軍の改革を進めさせた。セルジュコフ氏は有能だった。どんな国でも一流の陸軍と海軍は両立できないので、セルジュコフ氏は陸軍を強化するため、海軍をリストラしようとした。だが、その結果、たくさんの政敵を作り、2012年に失脚した。後任で少数民族出身のショイグ氏は政治的な遊泳術にのみ長(た)けた人物であり、陸軍の強化は停滞してしまった。

 ロシア軍は、ウクライナに対し、「電撃戦」を展開するには、攻撃を第1~3波と波状に仕掛ける必要があるが、第1波の準備しかなかった。そもそもプーチン大統領は今回の侵攻で、ウクライナ側の抵抗はなく短期間で終わると考えていた。「戦争」と言わずに「特殊軍事作戦」と呼んだ理由だ。

 一方、14年のクリミア半島併合でロシアに敗北を期したウクライナ軍は、水面下で軍備の強化を着実に進めていた。しかも、ドンバス地方の戦闘で40万人以上の実戦経験のある退役軍人がいた。それに対し、シリアで戦ったことのあるロシア兵は2000~3000人程度で、ほとんどのロシア兵は実戦経験がない。プーチン氏自身もチェチェン、ジョージア(グルジア)やシリアなどで特殊軍事作戦に関わったのみで、ウクライナのような人口4000万人超の大国と戦争した経験はない。

 外務省の元欧亜局長で、北方領土返還交渉でロシア側と交渉経験もある東郷和彦氏は、「ガレエフ氏の情報は正確だ」と認める。

 国際政治に詳しい河合秀和・学習院大学名誉教授は、「今回の戦争は、誰でも利用できるSNSなどを使った情報戦争であることが特徴だ」と指摘する。実際、2月24日のウクライナ侵攻前、米バイデン大統領は諜報活動で得た軍事機密を記者会見やSNSで積極的に公開し、ロシアによる攻撃への備えを国際社会に訴えた。

 防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長は、「米国はできるだけロシアの軍事機密情報を流すことで、ロシアが侵攻を思いとどまることを期待した。世界の注目が集まる中で戦争が始まったことで、ロシアに対する制裁もスムーズに行われたし、国際世論の批判もすぐに起こった」と説明する。ロシア軍の内情を「暴露」するガレエフ氏のツイートも、そうした「情報戦」の一つと考えられる。

東部戦線拡大なら長期化

 世界が両国の出方を固唾(かたず)をのんで見守るなか、戦争は長期化の様相を見せ始めている。

 ウクライナ側の根強い抵抗により、準備不足が露呈したロシア軍はウクライナの首都キーウの攻略に失敗。そこで東部ドンバス地方へ兵力を集め、攻撃を再開した。高橋氏は、「ドネツク北部で今後、平原で戦車を交えた非常に大規模な戦いが予想される。その帰趨(きすう)が、戦争の流れを決める」と見る。

 米CNNの報道などによると、バイデン大統領は4月13日、ウクライナへの8億ドルの追加軍事支援を表明。その中には、旧ソ連製ヘリコプター「Mi17」11機と、米軍の「M113」装甲車200台、155ミリ榴弾(りゅうだん)砲18門、自爆型ドローン「スイッチブレード」300機など…

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週刊エコノミスト

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