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《シェアで書店主》本は一棚、店番は一日 誰でも“本屋”に=黒崎亜弓

 <シェアであなたも書店主>

 壁一面に本が並ぶ。通常の書店と違うのは、本棚が三十数センチ四方に区切られており、各区画に“棚主”の名が記されていること。棚主は月額数千円で棚を借り、思い思いに本を並べて売る。誰でもひと棚分の“本屋”になれる場所がいま、各地に続々と誕生している。(シェア本屋 特集はこちら)

 新刊や古書の書店が店内の一部の棚を貸し出したり、カフェの一角に貸し本棚を設けたり、あるいは棚貸しだけで成り立つ本屋までさまざまだ。

 なかでも今年3月、本の街である神田神保町にオープンしたPASSAGE by ALL REVIEWS(パサージュ・バイ・オール・レビューズ、東京都千代田区)は362と最大規模の棚を備える。

 棚のなかで、アダム・スミスに関する本ばかりが並ぶ一角が目に留まった。棚主名のカードには「アダム・スミスはお嫌いですか?」と記され、「誤解された『経済学の父』アダム・スミス」と題したオリジナル冊子もある。棚主に話を聞いてみた。

アダム・スミスだけの棚

「アダム・スミスはお嫌いですか?」の棚(PASSAGE by ALL REVIEWS店内)
「アダム・スミスはお嫌いですか?」の棚(PASSAGE by ALL REVIEWS店内)

「スミスへの誤解を解く活動はライフワーク。自由放任や市場原理を体現した人物だと勘違いされているが、思想は深く広い。パサージュを知り、リアルな場でスミスを知ってもらえる機会になると思った」

 そう話す棚主は30代の男性会社員。自身もかつては思い込みで嫌っていたが、2008年刊行の堂目卓生著『アダム・スミス』(中公新書)を読んで一転、魅了された。

「研究者は知を深化させるが、広く伝えるのが自分の役割。一緒に学んでくれる人を増やしたい」

 棚にはスミスに関する200〜300冊の蔵書から、堂目氏の本はもちろんのこと、導入としての伝記や新書から学術書まで約20冊を取りそろえる。本を買った人からメッセージが届いたり、棚を見てウェブで発信してくれる人がいたりと手応えを感じている。

 三十数センチ四方の空間に、棚主の思いが発露するのが棚貸し本屋の魅力だ。あちこちの店を見て回ると、たとえば広島カープに関する本ばかりの赤い一角。共生をテーマに生態系に関する本を集めた棚は、微生物のイラストのマスキングテープが張られ人目を引く。一人で執筆から印刷・製本まで手がけた作品を置いた棚もあれば、小説からエッセーまでジャンルを問わずオススメ本を並べた棚もある。

 棚が集まることで特色が出る店もある。たとえばパサージュと同じく神保町の「猫の本棚」(東京都千代田区)は、管理人が映画評論家・映画監督の樋口尚文さんとあって、棚主にも映画関係者が多いといい、映画の本が目立つ。

 通常の書店であれば、売れ筋を軸に一通りジャンルを網羅する。ネット書店は特定の本を探しやすく、自分の購入履歴をもとにオススメされたりする。棚主の集合体はそれらの対極にある。雑多で偏った、デコボコとした棚を一つ一つ眺めていると、誰かに差し出されたかのように本がふと目に留まる。

本を介してお客と話す

ブックマンションを運営する中西功さん(東京・吉祥寺)
ブックマンションを運営する中西功さん(東京・吉祥寺)

 棚貸しをメインとするシェア型本屋では、シェアするのは本棚ばかりではない。棚主が“一日店長”となり、店番もシェアするスタイルが加わる。一日店長を務める日は、自分の棚以外に店内の目立つ台を使うことができる。

 吉祥寺のブックマンション(東京都武蔵野市)で、13時の開店を前に棚主の女性が店内を掃き清めていた。絵本を並べるtanabota booksさん。きょうの一日店長だ。主婦で子供たちへの読み聞かせの活動などを長年やってきた。「自分は接客には向いていないと思っていたけれど、本についてだと話しやすい。店番でさまざまな人と出会える」。店番は、本を選んで自分の棚をつくることに並ぶ棚主の楽しみだという。

 ブックマンションの棚主は、3カ月に1度は店番に入る約束だ。店が特定の棚主の居場所になることを防ぐため、1カ月に1度までという制限もある。週4日の営業日のうち、店番に入る人がいない日は休みとなる。

 店番のシェアを重要視しているのは、オーナーの中西功さんがシェア型本屋のモデルケースとして位置付けているからだ。中西さんは19年からシェア型本屋を広げる活動に取り組んでおり、オープンを目指す人の相談に乗ってきた。

広がる本屋の役割

「棚をシェアすれば、本を扱う経験や知識がなくても本屋を開ける。店番をシェアすれば、他の仕事をしながらでも運営できる。シェア型はどんな人でも『本屋を作れるかもしれない』と思える形だ」と中西さん。“誰でも本屋”は棚主だけでなく、運営者にも当てはまるというわけだ。「本屋が減っているのだから、業界以外の人にいかに参入してもらうかが重要ではないか」と話す。

 実際、各地にオープンしているシェア型本屋は、コワーキングスペース(共同の仕事場)に併設されたり、銭湯のロビーに設けられたりと多様だ。同時に、本屋の位置付けが単に「本を売買する場」から別の次元に広がり始めている。

 21年2月、東京都世田谷区の松陰神社前商店街にオープンした「100人の本屋さん」は、コワーキングスペースとイベントスペースが同じ空間にある。

 運営する吉澤卓さんは、「シェア型本屋には、本に巡りあうことと、人に巡りあうことの二つの面がある。棚主は並べた本を通じて自己開示しているので、交流が生まれやすい」と話す。店では読書会のほか、棚主たちの持ち寄り食事会、お香や写経のワークショップが開かれたりと本にとどまらない動きが起きているという。

 本屋の看板があれば、誰でも入りやすい。棚の本から棚主の興味や思考が伝わり、並んだ本が会話のきっかけになる。シェア型本屋は、本をツールとした交流拠点になると期待が寄せられている。

(黒崎亜弓・ジャーナリスト)

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