国際・政治注目の特集

《防衛産業&安全保障》 ウクライナ侵攻以前から実は米防衛企業株が長期上昇していたワケ=編集部

    長期上昇の米防衛大手株 民生・軍事の垣根も低下=桐山友一

     <大解剖 防衛産業&安全保障 ウクライナで世界一変>

    「『ジャベリンを携え、穏やかに話す』。なぜなら、我々はそれらを大量に送り込んでいるからだ」──。(防衛産業&安全保障 特集はこちら)

     バイデン米大統領は4月21日、ロシアの侵攻に抵抗するウクライナへの追加軍事支援策を発表した際、セオドア・ルーズベルト元大統領の外交姿勢を表した言葉「大きなこん棒を携え、穏やかに話す」を引き合いに出した。圧倒的な軍事力を背景に臨む「こん棒外交」として知られるが、こん棒に代わる象徴となったのが携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」だ。

     ジャベリンは売上高で世界一の米防衛企業ロッキード・マーチンと、2位のレイセオン・テクノロジーズが共同で生産する。発射前にロックオンした標的へ自律誘導で命中する「撃ちっ放し」が特徴で、兵士は発射後にその場を退避できる。また、戦車の装甲の弱い上部から攻撃することも可能で、ウクライナの首都キーフ(キエフ)に進むロシア軍を足止めさせ、ついには撤退に追い込んだ。

     ジャベリンのもう一つの特徴は使いやすさにあり、複雑な組み立てや熟練の技術を必要としない。防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長は「いくら高い機能が付いていても、分厚いマニュアルを読み込まなければならない兵器は実戦で使えない。米軍はそれをベトナム戦争など豊富な実戦経験から学んでいる」と話す。

     ジャベリンは少人数の部隊でロシア軍をゲリラ的に襲撃する「ヒット&アウェー」戦法に用いられて効果を上げた。ただ、そうした少人数の部隊にとっての天敵は攻撃ヘリコプター。そこで、レイセオンの携行型地対空ミサイル「スティンガー」も同時に少人数部隊で運用し、攻撃ヘリを近づけなくすることで、ヒット&アウェー戦法の効果を引き上げた。

    “古い”ジャベリン

     米国は2月24日のロシアによるウクライナ侵攻開始後、4月22日時点で総額34億ドルの兵器をウクライナ側に供与した。その中には、5500発以上のジャベリンや、1400発以上のスティンガーのほか、米ドローン(無人機)メーカー、エアロバイロンメント社の自爆攻撃機能を持つドローン「スイッチブレード」700機以上など多様な武器が含まれる。

     ロシアのウクライナ侵攻後、米主要防衛企業の株価は大きく反応した。ロッキード・マーチンの株価は侵攻前の2月23日に比べ、4月22日時点で15%高。レイセオンも9%高のほか、ノースロップ・グラマン16%高、ゼネラル・ダイナミクスも10%高で、S&P500株価指数の1%高を大きく上回る。米国防総省は4月13日、これらを含む防衛大手8社の首脳とウクライナ向け支援兵器の生産加速などを協議したといい、需要増に拍車がかかる。

     ただ、一躍注目が集まったジャベリンは、米軍への配備開始は1990年代後半であり、目新しい兵器ではない。そればかりか、「米国では21世紀に入り、使い道のない兵器だと批判されていた」と高橋室長は言う。米軍はアフガニスタンをはじめ対テロ戦争の比重が増したが、テロ組織は戦車を持たないうえ、1発数千万円といわれるほど高価なためだ。

     携行型の対戦車ミサイルや地対空ミサイルの有効性が示されたのは、すでに50年近くも前の第4次中東戦争(73年)のこと。エジプト軍がイスラエルの戦車に対して大量に対戦車ミサイルを使用するなどし、大打撃を与えたことで、当時は「革命」とも称された。そうした“古い”兵器が今、改めて脚光を浴びたことは、正規軍同士の地上戦へと戦争の形が回帰したことも意味している。

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     米国は世界に冠たる兵器の生産国だ。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が昨年12月に発表したリポートによれば、世界の兵器生産・軍事サービス企業の20年の売上高上位100社で米国は41社を占め、上位5社はロッキード・マーチンを筆頭に米国企業が占める(表)。上位100社の売上高では、米国の割合は実に54%にものぼる。

     足元で株高が続く米主要防衛企業だが、実は2013年ごろからS&P500を上回る株価の伸びを見せていた(図1)。「世界の警察官ではない」と宣言したオバマ米政権(09~17年)下で米国の軍事費は抑制が続いた中、業績を伸ばした要因の一つがサウジアラビアやオーストラリアといった国々への輸出の増加だ。

    軍事費初の2兆ドル超

     例えば、ロッキード・マーチン製のTHAAD(終末高高度防衛)ミサイルシステムは18年、サウジアラビアが総額150億ドル(約1兆9000億円)で購入を決めた。また、1機1億ドル前後の同社の最新鋭ステルス戦闘機F35は、日本をはじめ納入国が広がっており、フィリップ証券の笹木和弘リサーチ部長は「いったん納入されれば、訓練やメンテナンスなどで長期にわたって収益になる」と話す。

     さらに、M&A(企業の合併・買収)などによる再編も活発で、レイセオンは20年4月、米航空・機械大手のユナイテッド・テクノロジーズと旧レイセオンが合併して発足するなど、「米国の国防支出が伸びない中、苦労しながらやってきた」(笹木部長)。同時に、ロッキード・マーチンが13年以降、総額203億ドルにものぼる自社株買いを実施しているように、株主還元に積極的なことも市場で評価を集める。

     もう一つ、見逃せないのが、SIPRIが昨年12月のリポートで指摘するように、ITが防衛産業を大きく変えていることだ。20年の売上高16位のレイドスは13年、防衛関連などのITサービスを中心とする現体制に再編して以降、68%も売上高が増加し、国防総省向けのサイバーセキュリティーも手掛けている。29位のCACIインターナショナルも同様に大きく業績が伸びている企業だ。

     IT企業自身も防衛産業に深く関わるようになっている。例えば、米マイクロソフトは昨年3月、米陸軍に戦闘の訓練などで使う特注のAR(拡張現実)端末「ホロレンズ」を供給すると発表した。10年間で最大219億ドル(約2兆8000億円)もの大型契約だ。また、米アマゾンなども米中央情報局(CIA)とクラウドサービス契約を結んだりしている。

     そうした時代を象徴するように、今回のウクライナ侵攻では新しい戦争の形も見えた。防衛研の高橋室長は、ウクライナ側による民生用ドローンの活用に着目する。上空から地上のロシア軍の様子を捉えた動画がSNS(交流サイト)にも多く出回っているように、戦場の“目”を多数、空に配置してロシア軍の状況を的確に把握したことが、ジャベリンなどによる攻撃の効果を上げたという。

     ウクライナ側はIT企業の力を借り、ドローンの映像情報を集約するセンターを作ったとされる。その過程では、米起業家イーロン・マスク氏がCEO(最高経営責任者)を務める米宇宙企業スペースXの衛星インターネットサービス「スターリンク」も使われた模様だ。民生と軍事技術の垣根が大きく下がり、戦局を大きく左右するようにもなったのがウクライナ侵攻の別の側面だ。

     SIPRIは今年4月、昨年の世界の軍事費は2兆1130億ドルと、初めて2兆ドルを超えたと発表した(図2)。ロシアのウクライナ侵攻は4月下旬時点で、東部や南部が主戦場となり、長期化の見通しも指摘される。中国は経済規模の拡大とともに軍事費を伸ばし続け、米国もトランプ政権後、増加基調をたどる。世界の軍事費は今後も当面、増え続けることは確実で、防衛産業への需要も高まることになる。

    (桐山友一・編集部)

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