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《シェアで書店主》シェア型本屋をプロデュース 仏文学者・鹿島茂さん 「棚は自己表現の手段。選んで価値を創造できる」

鹿島茂さん。自身の棚の前で
鹿島茂さん。自身の棚の前で

 東京・神田神保町のシェア型本屋PASSAGE by ALL REVIEWSをプロデュースしたのは、仏文学者の鹿島茂さんだ。3月にオープンして以降、反響や手応えなどを聞いた。

 当初、棚主として想定していたのは書評サイトALL REVIEWSの書き手や出版社が自分たちの本を並べることだったが、選書で自己表現しようと棚主になる人が多いことに驚いている。若い人が多いのも意外だった。

 自分が面白いと思って並べた本に買い手がつくことが、自己表現の快楽として棚代と等価交換されている。棚の分だけ自己表現がある。

 私は古書の収集家として「今あるものを集めて、これまでにないものを作り出す」ことを打ち出してきた。選んで並べることが表現になるのは、20世紀の近代の始まりに起きていたことだ。近代は「この世に新しいものは何もなくなった」という認識から始まる。だから選ぶしかない。その時代の感覚に日本はいま近づいている。

 一棚に十数冊並ぶのはちょうどいい規模で、バラエティーを持たせ、何が売れ筋なのかを考えることができる。棚主はだんだん面白くなり、工夫する。古本屋の100円均一箱に入っているような本も、自分なりの切り口で並べると一気に価値がついて高値でも売れるようになる。それこそが価値の創造、「ないものを作り出す」ことだ。

価格競争になりにくい

内装もパリのパサージュを模している
内装もパリのパサージュを模している

 ネット通販だと価格競争になるが、自分が大切に思う本に、あえて市場価値より高い値段をつける棚主もいる。価値の根拠を示すために、ほかの本と一緒に並べて連関を見せたり、推薦文をつけたりする。

 もうけようとはしていなくても、売れると励まされる。自分が示した価値を認めてくれたということだからだ。客が「この棚はいい」と思うと、新たに本が並んだことをSNS(ソーシャルメディア)で知って買いに来たりする。そんな動きに新しい商業形態を見いだしている。市場ではなく、売る人と買う人の間で成り立つ相対取引の復活だ。

 今までの社会はひたすら大量生産、大量流通、大量消費で回ってきた。資本がより大きくなければ勝てなかったが、これからはそうでもない。

 店名は、フランス革命の後、パリのあちこちに生まれたアーケード街であるパサージュからとっている。デパートの先駆形だが、店ごとに所有者が違い、それぞれが自己表示する。経営者が単一のデパートは経営が悪化すればつぶれるのに対し、パサージュは権利関係が複雑で壊せず、150年、200年と残った。

 このPASSAGEも自由を保障した場であり、売り上げが上がらなくても追い出すことはない。金銭論理に還元されず、トップダウンでもない。そのような形は今後、さまざまな応用が利くのではないか。

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