“独裁”許した日大事件の教訓、骨抜きの改革で ますます問われるガバナンス体制=磯山友幸
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大学 骨抜きの学校法人改革 “独裁”を許した日大事件の教訓 公益法人と同等のガバナンス…=磯山友幸
“独裁”を許した日大事件の教訓 公益法人と同等のガバナンス必要
現職の理事や理事長が背任や脱税で逮捕されるという前代未聞の不祥事を起こした日本大学。入学志願者は減少し、年90億円に上った私学助成金も2021年度は全額不支給となり、存亡の危機に直面している。日大卒業後に同大職員となり、相撲部コーチから理事長にまで上り詰めた田中英寿前理事長の独裁体制が今回の不祥事の原因であることは間違いないが、なぜ一人の人物が日本最大の大学法人を牛耳ることができたのか。そもそも私立大のガバナンス(組織統治)のあり方が問われている。
時を同じくして、文部科学省では学校法人のガバナンスに関するルール改革が議論されてきた。文科省に設置された「学校法人ガバナンス改革会議」が昨年末、財団法人や社会福祉法人など「他の公益法人と同等」のガバナンスの仕組みに、学校法人も変えるよう提言をまとめたのだ。ところが一部の私立大経営者らが猛反発。自民党の文教族を動かして文科省に提言を棚上げさせた上、再度会議体を設けて3月末に新たな報告書を取りまとめた。
結局、その内容には一部、監視機能強化につながる改革案が盛り込まれたものの、理事長や理事の選任の仕組みは事実上、学校法人任せとして従来通りのやり方が認められる内容に大きく後退した。一体、大学経営者は何を求めているのか。今回の事件は日大だけの問題で、他大で起きることはないのだろうか。
背任は不問の前理事長
日本大学の取引業者からのリベート(謝礼)などを申告せず、所得税計約5200万円を脱税したとして、所得税法違反(過少申告)に問われた田中前理事長に対し、東京地裁は3月29日、懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円の有罪判決を言い渡し、4月13日に確定した。ただ、罪に問われたのは脱税にとどまり、「腹心の部下」といわれた井ノ口忠男・前理事が立件された背任事件については理事長の責任は問われなかった。
井ノ口前理事は日本大学付属板橋病院の医療機器納入を巡り、約2億円の過大な契約を日大に結ばせたとして背任罪に問われ、東京地裁で公判が続いている。18年にアメリカンフットボール部で発覚した危険タックル問題で責任を問われて理事を辞任したものの、翌19年には今回の事件の舞台となった子会社の「日本大学事業部」の取締役に就任。20年には理事として復帰した。世の中の常識から外れた復活劇を可能としたのも、権力を一手に握っていた田中前理事長の力によるものだろう。
有罪が確定した田中前理事長は4月13日、日大本部内にある同窓会組織「校友会」の本部事務局を訪ねたと報じられた。しかも翌日、翌々日と連続3日で訪れていたことも発覚。田中前理事長の逮捕を受けて理事長になった加藤直人学長は昨年の記者会見で「田中英寿とは永久に決別する」と宣言していたはずだが、裁判が終わって堂々とやってくる田中前理事長に大慌てとなった。
文科省も「前理事長と決別できないとの疑念を生じさせる」として日大に注意したという。日大は理事長の暴走を防ぐための新しいガバナンス体制のあり方を決め、4月7日に文科省に報告したばかりだっただけに、日大も文科省もメンツ丸潰れである。
3月31日に日大が公表した「第三者委員会」の調査報告書と、「日本大学再生会議」の答申書では、理事長の選考委員会は過半数を外部有識者にするとしており、次期理事長については「日大の出身にこだわらないこと、及び、これまで日大の学校運営に何ら関与したことがない学外者から迎える」としている。さらに理事長の任期を1期4年、2期までとした。ちなみに、田中前理事長は08年に理事長に就任し、20年からは4期目に突入していた。
「寄付行為」のカラクリ
また、理事についても36人いた理事を20人程度に減らした上で、3分の1以上を学外者にするとした。しかも理事長や学長を除く学内理事は定年を70歳としたことで長期にわたって「ヒラ理事」を務めることも難しくなった。これに対し、田中前理事長は『週刊ポスト』に掲載されたスクープ・インタビューでは、意気軒高に「日大改革批判」を展開している。その上で「この再生案では日大が崩壊してしまう」とまで言っている。
田中前理事長はインタビ…
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週刊エコノミスト
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