教養・歴史書評

日中台で生きた音楽家・江文也。戦争に翻弄された生涯の評伝=加藤 徹

日中台で生きた音楽家 戦争に翻弄されたその生涯

 20世紀は戦争と革命の世紀だった。国境線は何度も変わり、芸術家も政治に翻弄(ほんろう)された。音楽家のグスタフ・マーラーも、ユダヤ人ゆえに苦労し、晩年「私は三重の意味で無国籍者だった」と述懐した。

 劉美蓮著/西村正男監訳/廣瀬光沙訳『音楽と戦争のロンド 台湾・日本・中国のはざまで奮闘した音楽家・江文也の生涯』(集広舎、3850円)は、いわば「東洋のマーラー」とでも呼ぶべき江文也(1910〜83年)の評伝である。台湾生まれの江は、「その前半生を植民地の二等国民として生きた。そしてのちに北京で暮らすも漢奸(かんかん)(売国奴のこと)の判決を下され、さらには文化大革命で迫害に遭った。その波乱万丈な生涯をたとえるなら、台湾・日本・中国を股に掛けた近代の『三国志』とでもいえようか」。

 江は6歳で中国本土の厦門(アモイ)に渡り、13歳で日本の内地に進学した。音楽の才能を開花させ、若くして大作曲家の山田耕筰やオペラ歌手の藤原義江に認められ、歌手となった。女優の李香蘭(山口淑子)とデュエットでレコードを録音したこともある。

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