経済危機のスリランカ 中国依存を脱して日本の積極投資に期待=中島健一郎
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デモ抗議や首相交代などで混迷を深めるスリランカだが、国際空港に面したエリアでは日本の積極投資で整備が進んでいる。
デモ相次ぐ「光り輝く島」現地ルポ
経済危機に直面しているインド洋の島国スリランカが1948年に英国から独立して以来、史上初めて事実上のデフォルト(債務不履行)状態に陥った。IMF(国際通貨基金)との協議で首の皮一枚の状態だったが、4月18日の期限までに外貨建て国債利払いの猶予期間が終了し、5月18日には格付け会社が国債の格付けをデフォルトに引き下げた。
同9日には、マヒンダ・ラジャパクサ首相が辞任。政治腐敗を糾弾するデモ隊と政権支持派の衝突で多数の死傷者が出た事態の責任を取った形で、政情は一気に流動化した。ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は同12日、野党党首のラニル・ウィクラマシンハ氏を新首相に指名し、またもや事態は急変。仰天する野党議員らを横目に、新首相はラジャパクサ一族とも親密という。いわば出来レースだ。
過去に5回、首相を務めたウィクラマシンハ新首相は、欧米との関係が良好でIMFと折衝した経験もある、したたかな人物という。即座に事態収拾を図り、就任直後の5月13日には水越英明・駐スリランカ日本大使と会談した。英紙『フィナンシャル・タイムズ』によると、水越大使との協議で日本政府の1000億円分の融資枠のほか、民間投資約5000億円分もコミットされたという。新首相は記者会見で「日本などの援助を受け、燃料、食糧、医薬品の欠乏を終わらせ経済を立て直す」と表明。デフォルトを宣告されても「これまでと変わらない」と意に介さない。
日本政府の動きも素早く、林芳正外相は5月20日、スリランカに300万ドル(約3億8000万円)の緊急無償資金協力を実施すると発表。ウィクラマシンハ新首相は早期に訪日する意向も漏らしており、日本への期待は高まる一方だ。
中国はスリランカを一帯一路構想の要衝の地として多額の資金を供与し、港湾などのインフラ工事を進めてきた。スリランカに工事代金を返済するほどの経済効果は生まれず「中国の債務の罠(わな)」に陥った。進出した中国企業がカネをばらまいて利権をあさると同時に、スリランカ政府の腐敗も進んだ。こうした背景もあり、元々、親日的なスリランカは新首相の志向でいわば日本ブームの様相だ。さらにインドがスリランカの中国依存を減らすため、燃料購入用の融資枠設定に動いており、スリランカが日本、インドに抱く期待値は大きい。
若年層目立つ抗議デモ
筆者は4月20~28日、スリランカを訪問した。出発前に多くの知人から「危険ではないか」と反対されたが、無理もない。新型コロナウイルスや、ロシアのウクライナ侵攻で世界経済が停滞し、対外債務と財政赤字による停電やガソリン不足、物価上昇に民衆は怒り、デモを続けているのだ。
最大都市コロンボでは、大学生や弁護士ら若い世代が何万人も集まり「我々はこれまでと違うぞ」「わびても許さない」などと、シュプレヒコールをあげてデモ行進をしていた。ヘルメット非着用、凶器不携行の普段着デモだったが特徴的なのは「バジル、カ、カ、カ」というかけ声だ。行進の脇を走るオートバイが合わせてクラクションを「カ、カ、カ」と鳴らすのだ。
国民は大統領一族のバジル・ラジャパクサ前財務相が国家のカネを海外に隠した悪徳政治家として反発。バジル氏が海外記者との会話で「カラス」を英語で言えずに恥をかいたとして「カ、カ、カ」と、カラスの鳴き声でからかっていたという。腐敗を糾弾し、新たな国作りを求める若年世代の姿が印象的だった。
国を代表する若手政治家として嘱望されているのがナマル・ラジャパクサ国会議員だ。彼は「スリランカは国民が自由にデモをできる環境のある民主的な国だ」と前向きに語った。マヒンダ前首相の息子で36歳。経済危機に伴う混乱の責任を取るなど…
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週刊エコノミスト
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